ジョン・レノン、ラスト・インタビュー|未公開版完全翻訳

ーあなたがゴールにたどり着くことは決してないでしょう。曲を書いてレコーディングしていないと人々はあなたを批判します。でも過去3枚のアルバム『Some Time in New York City』、『Walls and Bridges』、『Rock ‘N’ Roll』があまり支持されなかったことは、忘れられているようです。特に「Attica State」、「Sunday Bloody Sunday」、「Woman Is the Nigger of the World」を含む『Some Time in New York City』は、共産主義的プロパガンダだとして不評でした。

そうだね。あれはみんなを怒らせた。ヨーコは「ベルトルト・ブレヒト」と呼んだが、僕は例によって何のことだかわからなかった。4年前に彼女がリチャード・フォアマン監督の「三文オペラ(訳注:ブレヒト作)」を観に連れて行ってくれた時に、彼女の言いたかったことをようやく理解した。僕はいつでも苛々させられていたが、僕はわざと、誤植だらけで時系列も事実もめちゃくちゃで、締め切りまでに帳尻を合わせろという態度の新聞のようにやってみたんだ。

でも僕は初めから何度も何度も批判されてきた。「From Me to You」を「ビートルズの標準以下」と言われたことは、決して忘れない。NME(編集注:ニュー・ミュージカル・エクスプレス)のレヴューだった。クソッ! おっと失礼。「Please Please Me」ほどいい曲ではなかったと言いたいのだろうが、「標準以下」とはどういうことだろうね。あの批評は絶対に忘れない。それにプラスティック・オノ・バンドのアルバムに対するレビューがどんなに酷かったか知っているかい? もうボロクソさ。「やりたい放題の短絡的な泣きごと」って感じさ。プラスティック・オノのアルバムは『Ziggy Stardust(訳註:デヴィッド・ボウイのアルバム)』でも『Tommy(ザ・フーのアルバム)』でもなく、僕ら自身をテーマにした作品なんだ。それからアルバム『Mind Games』も、評論家たちは気に入らなかったようだ。

だけどこれは僕だけのことではない。ミック(ジャガー)もそうだ。ミックは20年もコンスタントにいい仕事を続けている。そんな彼を休ませたりするかい? 「彼を見てみろ。彼は37歳にしてナンバーワンだ。『Emotional Rescue』のような素晴らしい曲もある。彼はもうそこまでか?」などとミックが言われることはないだろう。僕はこの状況を楽しんでいるし、楽しんでくれる多くのファンもいる。それからブルース・スプリングスティーン。彼はもはや神ではない、などと批判された。彼と直接会ったことはないが、いい噂を耳にしている。ファンは今の状況に満足している。彼は酔っ払って女の子を口説く話や車の話題などをファンに打ち明け、ファンもそんな状況に満足している。だけど彼が年を重ねて過去の栄光にしがみつき、それでも作品を出し続けることが求められるようになった時、彼はそっぽを向かれるだろう。僕は彼が上手くやってくれることを期待している。彼は僕やミックを手本にして欲しい。もちろん浮き沈みはあるが、僕らは機械人間ではないだろう? 彼は何を期待されている? ステージ上で自ら死んで欲しいと望まれているのか? 僕とヨーコがステージ上でベッドインしたり殺しあったりするのを見たいのか? 「From Me to You」がビートルズの標準以下と評価された時に初めて気づいた。とにかく自分は続けていくしかないってね。車輪に乗ってグルグルと回り続けなければならないシステムみたいなものがあるんだ。

ー車輪は何を表すのでしょうか?

地球全体はひとつの車輪みたいなものだ。グルグルと回り続ける。眺めている中心にあるのは自分自身の車輪だが、自分を見つめることで他の人々が見えてくる。それから自分の子どもを通じて自分自身を見つめ直すこともできる。

子どもといえば、まだまだ大変だ。僕はとても良い父親とは言えないが、とにかく一所懸命にやっている。でもとても短気な人間だから、落ち込んだりもする。喜んだりがっかりしたりの繰り返しだ。子どもの方もそれに付き合わねばならない。アメとムチさ。それが彼の将来にどんな影響があるかはわからない。とにかく僕は彼と一緒にいるようにしている。

人は誰もが身勝手だ。でもいわゆるアーティストは特に自己中心的だと思う。自分の気分やささいな自分の問題などよりもヨーコやショーン、或いは他の誰かのことを優先しようとすると、ストレスになる。もちろん、見返りや喜びも得られるんだが…

ー本能的な身勝手さと格闘している訳ですね。

そう。ドラッグをやったり不味いものを食べたり、運動不足の状態と同じさ。子どもの面倒を見るのと同じくらい難しい。全く自然にできないんだ。僕らは皆同じように育てられたと思うが、自分の子どもであっても、他の人間のことを思いやるのは本当に難しい。

ーでも「Beautiful Boy」のような曲を通じて彼のことを思いやっています。

ああ。でも曲を作るのは絵を描くのと同じように簡単だ。ゴーギャンはタヒチなんかにはまり、娘のために大作を描いた。確か映画でそのような話を見た。とにかく彼はタヒチで娘の絵を描いたが、彼女はデンマークで死んでいる。娘とは20年間会っていなかったというんだ。彼は性病にかかっていて、タヒチでは正気を失っていた。彼が亡くなりその絵は焼かれてしまった。だから彼の生涯の傑作を誰も見ることができないんだ。僕は常にそうなるのを恐れている。だから僕は自分の子どもをテーマにした曲を書く。子どもとボール遊びをするよりも、曲を書いている方がずっと楽なのさ。子どもと遊ぶのが最も苦手なんだ。他のことは何でもこなせるんだけどね。

Translated by Smokva Tokyo

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