ASKAが語る作詞論 言葉ではなく「フィーリング」を大事にする理由

アーティスト=ASKAが発するものに興味を持ってほしい

―このアルバムの一つのクライマックスM10「歌になりたい」に関しては前回ロングインタビューをしているので今回は割愛します。M11「消えても忘れられても」はご自身のことですか?

ASKA:自分の価値って何だろう?って誰もが思うことがあるはずです。つまり、全てはやっぱり、みんな自分のために生きてるんです。誰かのために生きてるんじゃなくて、最後は自分なんです。こういうことをしてこうやって相手を幸せにしたい。それも幸せにしたいって思っている自分が喜びなんです。結局自分なんですよ。世の中のために何かをやりたい、出来た、その喜びは自分なんです。そう考えた時に、君も含めて、70億の民の中で、たった一人でもいい、“この人を幸せにできた”、つまり自分以外の誰かを幸せに出来たって本当に言える自分がいるだろうかと。もし、言える人がいたら会ってみたいなと思っていて。それでこの曲の後半に<愛になれるかい?>って歌っているんです。愛って無償なんです。愛って始まりも終わりもないぐらい果てしないものだから。“愛が全て”っていう歌をある時期からみんなが歌い出したんけど、本当にそうだと思うんです。だけどただ単にフレーズとして歌ってる時もある。僕もそうだったので。でも、ある時に本気でそこに気が付いたんですよ。で、そう思えるようになってからは、自分はここの仲間入りができたなった喜びを感じようになったんです。もちろん、言葉ではいくらでも言えるんだけど、本当にそれに気が付ける人ってやっぱり幸せだなと思うんです。自分は気がつけてよかったと思っていますね。



―気づけたのにはきっかけがあったんですか?

ASKA:何がきっかけってことではなくて。でもいろんなことを経験し積み重ねて、やっぱり最後は愛ですよね。それしかないです。

―メッセージも含めて、このアルバムの曲はJ-POPの粋を越えていますが、その極めつけがM14「We Love Music」。曲のスケールがとにかく大きくて驚きました。

ASKA:今までのソロコンサートだと、「晴天を褒めるなら夕暮れを待て」を歌った時に、みんなピークを迎えるんですよ。なので、その曲はライブでは外せない感じだったんですが、前回のアルバムで書いた「今がいちばんいい」が最近のライブではそうなりつつあったんです。「今がいちばん~」はサビで会場のみんなが一緒に歌ってくれて、それがとにかく楽しくてね。で、今回一緒に歌うっていうことを大前提に作った曲がこの「We Love Music」です。

―先日お邪魔したライブでも新曲にもかかわらず既に大合唱が起きてましたね。

ASKA:そう! でも、お客さんに、ライブで歌わせるのが苦手なんでよ。特に初めて行ったコンサートで知らない曲だったりすると、もう仲間に入れないので。だから歌わせることはこれからもしないですけど、でも一緒に歌うならいいなぁって。そういう意味でこの曲を作りました。

・ライブ中のASKA

―そしてアルバムの締め括りに、シングル「歌になりたい」のカップリング曲で感動のインスト曲「Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」が収録されています。

ASKA:ええ。この曲はアルバムタイトルにしたかったんです。もうこれしかないでしょ、アルバムタイトルは。ただこの曲を入れるとCDで保証される時間=74分を超えてしまうんです。つまり、いわゆるデジタルエラーになった時に保証しませんよって言われたんですが、オーディオメーカーの人に聞いたら、「いや、全然平気だよ」って言うわけです。自分の家でCDに何回も焼いて聴いたんだけど、一回も音飛びしなかったのでそこは大丈夫です。安心してください。

―この曲はASKAさんがオリンピックのために作った曲なんですよね?

ASKA:そうです。僕がある意味勝手にオリンピックのために作ったんですが、東京オリンピックのためだと、2020年とともになくなってしまうでしょ? だから、あえてオリンピックを外して、“すべてのアスリートたちへ”っていうことで、アスリートに向けて作ったタイトルにしようと思って「Breath of Bless」にしました。

―ASKAさんご自身が剣道をやられているのもこの曲を作るモチベーションになっているんですかね?

ASKA:どうでしょうね。すべてのアスリートたちへの曲なんですが、この曲を聴いた方が自分の子どもの成長を記録する映像にこの曲をあててみたっていうエピソードも届きました。聴く方がどう聴くかは本当に自由ですからね。さっきの「未来の人よ」の話と矛盾してしまうんだけれども、世に曲を残したいって言っても、それはそうそう残るものじゃないですよ。どの時代に生まれてもそれは流行りの歌だから。流行りの歌だから毎回出てくるわけであって。メロディなんて400年前のクラシックのメロディで出尽くしてるわけです。なので、僕らが今歌ってるフレーズも、既に出尽くしたメロディの組み合わせを思いついてやってるのかもしれないです。そう考えると自分のミュージシャン生活で残る曲はこの曲じゃないかと思ってるんです。歌詞のないメロディだけのこの曲。だから、これはアルバムには絶対入れたかったんです。

―数あるASKAさんのヒット曲の中で、歌詞の付いてないこの曲が時代を超えてASKAさんの曲としては残ると。それはシンガーとしては切なくもありますね。

ASKA:当然だと思っているので、そんなに切なくは感じてないですよ。ただこの曲は楽曲制作に2年かかったので大切にしたいなと思っています。

―アルバムのトータル分数が約76分。1曲1曲も壮大。ある意味今の時代に対するアンチテーゼを感じます。15秒でサビが来るような作しりないとヒットしないと言われる時代に、アルバムの意味、一曲の中で何が残せるだろう、語れるだろうみたいなすごい熱量や想いを感じて、聴いていて鳥肌が立ちました。

ASKA:ありがとうございます。毎回アルバムは前回越えっていうのが自分の中のテーマなんです。それは自分で思っているだけで。やっぱり『NEVER END』(95年リリース)がよくできていて、あれは時期もそうだしいろんなものが揃ったアルバムでした。そして、それを超えるアルバム制作をしてきたように感じてます。今作はそれをちゃんと超えていると思っているんです。今回のアルバムは聴いてくれた人みんなが『NEVER END』を超えたと言ってくれるんじゃないかなと思っています。

―そして10月からは全国ツアーの開催が決定していますが、これは『Breath of Bless』のツアーになるのでしょうか?

ASKA:前回のツアーからはっきり打ち出してるんだけど、今後のツアーは『ASKAのありったけ』で行きます。去年が“40年のありったけ”だったので、今年以降は41年、42年、43年……のありったけでツアーをします。なので、アルバムリリースツアーではなく、新しいアルバムも全部含めて毎回ベストな曲を集めてライブやります。だってもう自分の中に縛るものがなくなったので。解き放たれてますので。秋のツアーの詳細は未だ決まってないですけど、とにかくエンターテイメントとして、また来たい!と思わせるようなツアーには絶対にしたいなと思っています。

―最後にローリングストーンの読者へメッセージを。

ASKA:フォークだロックだというカテゴリーじゃなく、そのアーティストが発するものに興味を持ってもらえればと思っています。キャリア40年を超えた僕が、今これを発しているということだけを、それだけを知ってもらえれば、僕は幸せです。


<INFORMATION>


『Breath of Bless』
ASKA
DADA label
発売中

1. 憲兵も王様も居ない城
2. 修羅を行く
3. どうしたの?
4. 未来の人よ
5. 忘れ物はあったかい
6. 百花繚乱
7. イイ天気
8. 虹の花
9. じゃんがじゃんがりん
10. 歌になりたい
11. 消えても忘れられても
12. 青い海になる
13. 星は何でも知っている
14. We Love Music
15. Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ


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