音フェチ動画、ASMRの歴史

第3章:「インターネットの秘密の花園」 ASMRコミュニティーが発言権を得る

2010年末には、「ASMR研究&サポート」と題したアレン氏のFacebookグループは100人強のメンバーを抱えていた。オーストラリアのセロトニン研究者など、いわゆる「脳のうずき」の原因に対するそれぞれの解釈を提唱する科学界の人間も少数紛れ込んでいた。別の一派はどちらかといえばスピリチュアルで、原因解明よりも形而上学的な意義に興味を持っていた。この頃には、多くのメンバーがASMRを引き起こすとされる“囁き”動画を投稿するようになっていた。動画を投稿する際、クリエイターは“ASMR”というタグを使い始めた。

WhisperingLife:
名前があるっていうのはいいなと思ったわ。以前は「囁き声とかタップ音が好きなんです」って言うと、周りから「ちょっとおかしいんじゃない」って言われた。でも今は、「実際はASMRって呼ばれてて、こういう理由で好きなんです」って言える。ずっと受け入れてもらいやすくなったわ。

Gibi ASMR(ユーチューバー):
インターネットの秘密の花園みたいだったわね。

そうした初期の囁きアーティストの1人が、GentleWhisperingことマリアだ。ロシアからアメリカに移住してきた20代のブロンド女性も、今ではASMRの女王として広く知られている。7年以上も前に作られた彼女の人気動画は2200万回も再生されている。

メリンダ・ロウ(ASMRのライブ体験を提供する企業、WhisperLodge社の創設者):
GentleWhisperingは昔から大好きなの。ちょっとロシア訛りがあるところが好きだったわ。彼女はすごく思いやりがあって、誠実そうな感じの人。作ってるような感じじゃない。

Amaldzd:
ASMRと言って、真っ先に思いつくのが彼女。ASMR界のマイケル・ジャクソンってとこね。



QueenOfSerene:
あの当時は誰も顔を表に出していなかった。タブーだったのよ。クリエイターがこの手の「顔出し」動画をやると100万回は再生されたわ。みんなクリエイターの素顔に興味津々だったからね。

GentleWhispering:
当時はみんな真っ黒な画面でしゃべってるだけで、カメラに向かってロールプレイしてる人が1人もいないことに気づいたの。今ほど動画フォーマットを活かしてる人は多くなかったのよ。それで私が始めたってわけ。

QueenOfSerene:
マリアが最初に顔出しを始めたときは、ある意味ポルノ的だった。「えっ、彼女、顔出ししてるわよ」って……間違いなくASMRコミュニティーの転換期だったわね。

HeatherFeather:
マリアがよく話してたわ、顔出ししてASMR音声に対抗してASMR動画を作ったことに、周りがどれほど驚いたかって。そのせいで反感もたくさん買ったみたいだけど。

QueenOfSerene:
(でもあれは)完璧なタイミングだったと思う。みんな思い切って顔を出したがっていたのよ。

HeatherFeather:
それで、もっと奥の深いロールプレイが出てくるようになった。動画の良さをフルに活用して、みんなどんどんクリエイティブになっていったわね。

QueenOfSerene:
カメラを直視するって、実はとても怖いのよ。ポジティブな感想がもらえるなら気にならなくなるんだけど、でも妙よね。慣れるまでは変な感じがするわ。リビングには自分とカメラしかないのに、カメラに向かって甘い声を出したり、撫でたりね。

第4章:「それって性的なもの?」という質問

最初期から、大半の人々はASMRを性的なものと決めつけ、“囁き”動画はある種のフェチだと思い込んだ。こうした外部による思い込みはコミュニティーが誕生してすぐの頃からあり、コミュニティー内部の人々は過敏にならざるを得なくなった、とジェン・アレン氏。SteadyHealthのスレッドでも、一部のユーザーがASMRを「脳内オーガズム」と表現し、すぐに別の人間が「これは性的なものではない、と擁護する12ページにも及ぶ投稿をする」といったことがよくあった。特に最初の頃は、人気コンテンツのクリエイターが若くて魅力的な女性だったことも裏目に出た。

ジェニファー・アレン:
匿名の健康関連のフォーラムでも、最初は明らかにみんな口にするのを憚っていましたね。「家族に話したら笑われた」とか「変だとかキモいとか言われたり、どうせセックス絡みだろうと思われた」とか。

ヴァレリー・ファリス(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』共同監督):
感覚が刺激されて、身体的反応が引き起こされるんです。官能的ではありますが、必ずしも性的とは限らないと思います。

WhispersRed:
ものすごく静かに、物音を立てずに、ゆっくりカメラに近づく。顔の表情ひとつひとつが見えるくらいにね。昔ながらの普通のメディアならたいていこういうのは性的な映像だから、その視点から見ると変だと思われるのよ。

EphemeralRift:
男が囁くっていうのは、少しハードルが高かった。まだそれほどポピュラーじゃないからね。普通家でゴロゴロしながらいきなり囁いたりしないだろう。父は僕たち兄弟に囁いたりしないし、周りにも「さっきのNFLの試合どう思う?」なんて囁く奴はいないだろ?妙な内密さがあるんだ。

だが現在公開されているASMR研究の大半は、全く性的ではないと反論している。

クレイグ・リチャード博士:
ASMRの最中はどんな気分か、という質問を投げかけます。2万人以上のASMR経験者にアンケートをとって、反応リストの中から――「リラックスする」「怖くなる」「心地いい」「性的に興奮する」――該当するものにチェックを入れていただきます。すると、「性的に興奮する」にチェックを入れた人は10%未満ですが、「リラックスする」にチェックを入れた人は90%を超えているんです。

WhisperingLife:
性的に興奮して、同時にリラックスなんてあり得る? 私に言わせれば、それこそおかしいわ。

Translated by Akiko Kato

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