音フェチ動画、ASMRの歴史

ASMRの効果を巡る研究

何年間も、クリエイターたちは治療目的でのASMR利用の可能性を探るべく、さらなる研究の必要性を訴えてきた。2015年、初めての学術論文がスウォンジー大学から発表された。475人の参加者を対象にトリガーや感覚に伴う身体的反応などについてまとめたものだ。慢性的な痛みにASMRを使っている(全体の19%)と答えた人のうち、42%がASMR動画を見ると効果的だと答えた。2016年の研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、ASMRを体験している人とそうでない人の脳を比較した。その結果、前者のグループは後者よりも多くの機能的結合性が見られた。だが、こうした研究は小規模で行われることが多く、多くの研究者や医学専門家はASMRを治療目的に使うことに未だ懐疑的だ。

ホイットニー・ローバン博士(一般及び法人向け睡眠スペシャリスト):
今日に至るまで、(ASMRに治療効果があることを)証明する科学的データが十分にあるとは言えません。

リチャード博士:
懐疑的になるのもご尤もです。科学の出発点は疑うことですからね。

ローバン博士:
ASMRが不安障害や鬱、PTSD、睡眠障害の改善に効果があるらしい、と発表している研究はわずかながらありますが、その大半はASMRに敏感だと自称しているだけの人たちに基づいたものです。

2018年、10人の被験者で行われたとある研究は、ASMR体験中の脳の動きにスポットを当てた。リチャード博士が共同研究者を務めたこの実験では、被験者をMRIにかけ、ASMRの動画を見せて、いわゆる“ゾクゾク感”を感じたらボタンを押してもらった。

リチャード博士:
うずきを感じていないときと比較すると、脳の主要エリアの数カ所がより活性化していました。特に範囲が大きかったのは前頭前皮質内側部という部分で、オキシトシンに反応することで知られ、身繕いといった親和的行動、または社会的行動に関係するエリアです。もうひとつは報酬行動やドーパミンに関係するエリアで、脳のこのエリアが活性化しているときは何かいいことが起きているということを意味しています。

ローバン博士:
興味深い研究ですね。ドーパミンは実際、脳のメラトニン生成を抑制する働きがあります。それでもやはり、ASMRが不眠症やその他睡眠障害にどれほど効果があるかという点では疑問が残ります。リラクゼーションには効果があるかもしれませんね。眠りの前段階として確かにリラクゼーションは重要ですが、睡眠前にASMR動画を見るのはいかがなものでしょう。睡眠前はメラトニンの生成を抑えるのではなく、増やしたいところですから。

被験者の数は極めて少ないものの、実験結果はリチャード博士が現在取り組んでいる説をある程度裏付けている。ASMRは身嗜み、接触、ハグなど、社会的繋がりを確固たるものにする、いわゆる“親和的”行動、または社会的交流と関連した、画期的な反応ではないだろうか。

リチャード博士:
これまで行われたfMRIを用いた親和的行動についての研究は、大切な人と時間を過ごしているとき、好きな人のことを考えているとき、ポジティブな社会的行動や他者との社会的交流を行っているときなどに焦点を当てており、共通して活性化する部分が多く見られました。これを踏まえると我々の研究結果は、ASMR動画を見ると脳はまるで大切な人と一緒に同じ部屋にいるかのように反応する、と解釈できます。

Translated by Akiko Kato

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