リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察

このままでは輪をかけて「モヤモヤ」したまま終わりそうなので最後にもう少し具体的な話をしたいと思います。「Midnight」の平歌ないしヴァースの部分でベースのローラ・リーはフレーズの最後の音をミュートせずに伸ばしっぱなしにしています。やや締りがない感じです。

ドナルド・ジョンソン(DJ)のドラムはいつものようにタイトです。昨年、来日公演に行った際に、3人ともなんだかロボットっぽいなぁという印象を受けましたが、なかでもDJはもっともロボットのようでした。数年前、上等なドラム音源を購入してDAWで打ち込みをしてみたときに「俺が求めてたリズムってこれじゃん!」と驚いたことがあります。それまでプリセット音源のしょぼさに気を取られて気づきませんでしたが、クオンタイズした打ち込みのリズム自体はまさに自分が求めていたものだったのです。我々はグルーヴがあるっぽい演奏をしようとするとき、ついつい創意工夫を凝らして特別なことをしようとしがちですが、まず初めにやるべきことはシンプルにより正確なタイム感を鍛えることではないでしょうか。それはさておき、「Midnight」のハットは一聴すると8分刻みのようですが、よく聴くと8分裏もゴーストっぽく叩いていることがわかります。これにより拍単位で大きな浮き沈みのあるグルーヴに16分で上下に細かくシェイクする感覚が付与されます。



ギターのマーク・スピアーはアタックを目立たせないようにピッキングを繰り返して音の減衰を宙吊りにするような演奏をしています。例えばヴルフペックのコリー・ウォンのようなカッティングが「長ネギのみじん切り奏法」だとすると、スピアーのコード弾きは「リンゴの皮むき奏法」と言ったところでしょうか。これはギターのように音が減衰する楽器特有の奏法といえます(ピアノでも同様のことはできるのでしょうか?)。慎ましい音量で演奏されていますが、おそらくアンプやギターのボリュームを絞らず右手で音量をコントロールしているかと思われます。力んでしまうと大きい音が出てしまうので非常にスリリングな演奏方法なのですが、このように演奏すると独特の色気が醸し出されます。水面がゆらゆら揺れている感じもあります。

ローラ・リーはヴァースではリラックスしたベースを弾いていましたが、サビないしコーラス部分ではバックビートの手前で音をミュートします。ここに無音の緊張感が登場させることでグルーヴに躍動感が生まれます。第一回でも既に述べましたが、ローラ・リーはこのように細かいところで曲にメリハリをつけているのです。さらに、こうしたグルーヴコントロールに作為を感じさせない点が名人の名人たる所以と言えましょう。





鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」

トリプルファイヤー公式tumblr

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