リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察

我々は演奏する立場にあっても聴く立場にあっても同様に、休符というものを額面通りに「休み」だと考えてしまいがちです。「だるまさんがころんだ」に例えるなら、鬼に視線を向けられて静止している状態のように休符を捉えるきらいがあります。けれども、特定の音楽にとって休符はむしろ鬼が「だるまさんが」と唱えている間に様子を伺いながら前進している状態、なるべく前には進みたいが大きく動きすぎるといざというときに止まれないというジレンマに苛まれつつジリジリ進んでいる状況と考えたほうがしっくる場合があります。

「Midnight」においてドラムとベースが提示するグルーヴには、1、3拍目で深く沈み、2、4拍目のバックビートでパッと浮かんでくるというような感覚があります。これをリズムの浮き沈みと言っても良いかもしれません。プールに入ってビーチボールを浮力に逆らって水中深くに沈ませたのち、そっと手を離すとボールがぷかりと水面に浮かび上がんでくる。そんな様子が想像できます。あるいは、鯉のように口をパクパクさせる要領で「パ」と発音するのではなく、唇をしっかり結んで口の中に空気を溜め、圧力をかけた上で勢い良く一気に「パ」と発音する感じ。こうした「沈みたい / 浮かびたい」ないし「留めたい / 放ちたい」という2つの指向性が相反するある種の緊張状態が音と音の隙間に見え隠れするのがちんまりグルーヴと言えましょう。



話のついでにもう少し例え話を続けたいと思います。「なんだかあの人、愛想が悪くてちょっと苦手……」と思っている人物とエレベーターで2人きりになったとします。気まずい空気が流れており、何か話しかけたほうが良いような気がするが、どんな話題を振ればいいのかわからない。無視されるのも怖い。為す術もなくただフロア表示を眺めていると突然「あの、○○さん」と相手が話しかけてきました。「○○さん、BTSがお好きなんですね。聞きました。私も大好きなんですよ」まさか苦手だと思っていた人が自分と共通の趣味を持っていたなんて! 話は大いに盛り上がり「この後お時間あります?」と言ってお茶をすることに。

この話でいうところの無言の気まずさが、ちんまりグルーヴの隙間における緊張状態のようなものと言えます。隙間は凪ではなく、心や体に圧がかかった状態だと考えてみてください。例え話ばかりで恐縮ですが、ホラー映画を観るときに、「どうせこのへんで驚かすんでしょ? はいはい、知ってた。ゴア表現がぬるいなぁ」といった調子で余裕こいて観るよりも「やめてやめてやめて…… 来る? 来る? え、え、え、うそ? うそでしょ? ちょっと! 待って待って…… ちょ…… ぎゃあああああ‼︎‼︎」といった具合に緊張で体を強張らせて大きくリアクションしたほうがより楽しめると思います。散々怖がらせたうえで実際に映し出される恐ろしいシーンというものは我々にある種の解放感をもたらします。ちんまりグルーヴを味わうときも同様に、プレーヤー、リスナーに関わらず、音と音の隙間に緊張を感じることで、放たれた音が体に衝突する度に解放感が得られるはずです。

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