精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」

Illustration by Simon Prades for Rolling Stone



触法精神異常の穴

オレゴン州では一般的に、心神喪失で無罪になると州立病院で監察を受け、その後保護観察付きで社会への復帰が認められる。モントウィーラーは過去20年間、大半を病院ではなく、州が支援する住宅施設で過ごしていた。そこでは定期的な治療とケースワーカーの訪問も受けられた。彼は双極性障害と診断されていたが、新たな暴力的症状が発現することはなかった。医師とケースワーカーも彼の精神疾患はきちんと管理抑制されている、と記録した。州立病院に連れ戻されたのは加重窃盗――精神病の症状ではない――で逮捕されたときのことだった。2014年4月、彼は収容されるや否や、自分の居場所はここじゃない、と言い出した。担当の医師とソーシャルワーカーに「俺は精神病など患っちゃいない」と言った。

彼は完全釈放を要求した。オレゴン州では、たとえ刑事事件であっても、精神病患者が州の監督下に置かれるのは2つの条件を満たした場合に限定される:犯罪者がこの先も双極性障害や統合失調症といった重度の精神疾患を有すること、かつ公共への危険となりうること。公聴会に先立って、司法心理学者はモントウィーラーの暴力性を判断するためにリスク評価を行ない、監視されない状態では「彼が暴力的になる危険は高く、パートナーまたは家族に襲いかかることはほぼ間違いない」と結論づけた。だが、州立病院でモントウィーラーを担当した精神科のムケシュ・ミッタル医師は、過去20年の医療記録――その量なんと700ページ以上――を見る限り、精神疾患の兆候を示すものは何もないと証言した。また、モントウィーラーは州立病院で1年以上も薬を投与されていなかったが――一般的には、双極性障害の患者には危険な処置だ――精神病の症状は全く現れなかったとも言った。「事実は事実です」とミッタル。「私の結論は、長年数々の医師が診てきた記録に基づくものです。この間、彼には診断内容に合致する症状は一切見られませんでした」


2018年5月、オレゴン州ベールのマルヒュア郡巡回裁判所から、車椅子で退廷するアンソニー・モントウィーラー(Photo by Pat Caldwell/Malheur Enterprise)

公聴会は2時間以上に及んだが、モントウィーラー本人の証言はたったの8分半だった。州の職員が、眠れなくて困ったことはあるかと質問すると、モントウィーラーは「いいえ、夜はいつもぐっすり眠れます」と言った。気分が滅入ったり、生きていても意味がないと感じたことは? 「俺は常に満たされています」とモントウィーラー。「ようするに、気分が滅入ったことは一度もありません」。さらに職員が突っ込んで、朝ベッドから出るのが億劫だったり、活動するのが面倒になったことは一度もないか、と訊くと、「ありません」と答えた。「いつもちゃんと出勤します。無欠勤です」

少し休憩を挟んだ後、審査会はモントウィーラーには「該当する精神疾患または精神障害が見られない」と判断した。つまり、州は法律に法って、彼の釈放を認めなくてはならないのだ。州立病院から退院した犯罪者は、たとえモントウィーラーのように刑期を完了していなくても、刑務所に逆戻りされることはない。一切監視されることなく自由の身になる代わりに、それまで保証されていた州の精神医療ケアは受けられなくなる。

Translated by Akiko Kato

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