精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」

Illustration by Simon Prades for Rolling Stone



剥がされる化けの皮

ジェシカは脳震盪を起こし、肋骨を3本と片手を骨折。さらに肺虚脱を負ったが、一命はとりとめた。だが、38歳のデヴィッドとアニタ・ハーモンは、事故現場で死亡が確認された。モントウィーラーは軽傷を負っただけで、すぐに拘束された。その夜ボイシの聖アルフォンス病院で、彼は1度だけ身を起こしてコップ1杯の氷を頼み、時たま痛みを訴えた。看護師には、転倒したので入院したんだと言った。看護婦が衝突事故について触れると、モントウィーラーは「そんなの嘘だ。やめてくれ。俺がここにいるのは転んだからだ」

最終的に警察は、彼のダッジからゴム手袋の空き箱と高強度の結束バンド、ガムテープ1巻、ロープ100フィート(約30メートル)分、小型双眼鏡を発見。運転席の床には黒いナイロン製のナイフの鞘、そして助手席の隣には血まみれのナイフが落ちていた。捜査官が取り寄せたモントウィーラーの犯罪歴は実に長々としたもので、窃盗と詐欺未遂が何度も繰り返されていたが、暴力事件はたった1件だった。

さかのぼること20年前の1996年、モントウィーラーは前妻と息子に銃を突きつけ、誘拐した罪で起訴された。判決は触法精神異常。つまり刑務所への収監は免れるものの、最長刑期と同じだけ州裁判所の監督下に置かれる、というものだった。彼の場合、最長刑期は70年。「あれから20年経ちました」と、モントウィーラーの事件について詳しく取り上げたマルヒュア・エンタープライズ紙のレス・ゼイツは言う。「ここで疑問が浮かびます。『そもそも彼はマルヒュア郡で、野放し状態で何をしていたのか?』」

アニタ・ハーモンとデヴィッド・ベイツが亡くなる1カ月前、アンソニー・モントウィーラーの精神状態を判断する公聴会が行なわれた。当時、彼はオレゴン州立病院の患者だった。セーレムの北東、刑務所を併設した敷地面積425エーカー(約172万平方メートル)の精神病院だ。法廷を思わせる木製パネルで仕切られた狭いスペースに弁護人と並んで着席し、州の審査会に向かって、心神喪失の抗弁は最初から嘘だったと語った。

彼は1997年に行われた誘拐事件の公判で、自分が犯行に及んだのは幼い頃父親に射殺された母親の声に導かれたからだ、と供述していた。それが今になって、『精神障害の診断と統計マニュアル』を調べ、行動的特徴を真似した、と主張したのだ。死んだ母親の声が聞こえた、という供述に関しても「イカれているように見せかけるために全部でっち上げました。何も聞こえちゃいなかった……道は2つ、刑務所行きか(心神喪失の抗弁で)病院送りか。それには、ただ狂人のように振る舞えばいい。俺はそっちの道を選びました」。 彼はさらにこう付け加えた。「ずっと制度を利用してきました。でも、もう終わりにします」

Translated by Akiko Kato

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