精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」

Illustration by Simon Prades for Rolling Stone



アニタ・ハーモンという女性

2005年、モントウィーラーはトレジャーヴァレー・コミュニティ・カレッジの溶接教室で、ケイティ・ギルと出会う。のちに彼の3番目の妻となる女性だ。2人の間には2人の子供が生まれた。ギルは両親と同居していたが、モントウィーラーはオンタリオの成人精神病患者向けの支援施設に住んでいた。2009年春、PSRBの監視下に入って10年以上が経過した頃、モントウィーラーは完全釈放を請求した。「私は構いません」とミルズは書いている。審査会に宛てた書簡の中で、彼女はこう報告している。「私の見解では、アンソニーは精神疾患を抱えてはいますが、症状はきちんと管理されています。もし将来トラブルに巻き込まれたとしても、精神疾患によるものではなく、反社会的(犯罪)特性によるものでしょう」

だが、モントウィーラーの請求は却下された。1年も経たないうちに、彼はギルと離婚。そしてまた婚約した。次の婚約相手だったアニタ・ハーモンとは、彼女が店員として働いていたWalmartで会計の列に並んでいるときに出会った。ハーモンは家族に、モントウィーラーは理想の男性だと語った。

バドとスーザン・ハーモン夫婦は、アイダホ州のワイザーにあるクリーム色の大きな家に住んでいる。家の前の道はスネーク川が大きく曲がるところから延びていて、周りには古い農場とプラスチックの外壁を施した新しい家が混在していた。2018年1月に取材で訪れたとき、広々とした円柱に支えられたポーチで、ジーンズに花柄のブラウス姿のスーザンが迎えてくれた。居間は埃ひとつなく、小さな天使の置物が陳列棚に飾ってあった。小さなソファの隅には、祈りの言葉が刺繍されたクッションが置かれていた。癒しを湛えた眼でスーザンはグリーンのリクライニングチェアに座り、寛いでいますか、と何度も声をかけた。娘のことを話す機会なんてあまりないんですよ、と言った。「みんな私たちに話しかけるのを躊躇っているんです」と彼女は言った。「思い出させないように」

双極性障害を患っていたアニタは、父親が敷地内に建てた1800平方フィート(約167平米)の家具付きアパートで暮らしていた。前夫との間に2人の子供がいて、動物が大好きだった。子供の頃は乗馬をしていて、大きくなってからはしょっちゅう捨て猫を拾ってくるのが母親の悩みの種だった。アニタの症状がひどくなると、アパートは散らかし放題だった。シンクには皿が山積みになり、ゴミは溜まり、猫用のトイレは満杯だった。「2階からよく泣いている声が聞こえてきました」とスーザン。「鬱のときは本当に大変でした。 だが亡くなるまでの数カ月間は、新しい薬に変えたことで昔のアニタが戻ってきたみたいでした」。感謝祭には料理や皿洗いを手伝い、クリスマスにはクッキーを焼いた。「彼女はいつも思いやり深い子でした」とスーザンは言う。事件の前の夜のことを、スーザンは涙を浮かべながら語ってくれた。「私、すごくうれしかったんです。やっと一段落して、愛してるよって言えるようになったんですから。娘を見たのはそれが最後です」

Translated by Akiko Kato

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