精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」

Illustration by Simon Prades for Rolling Stone



人を操る言葉

PSRBはいつでも条件付き保釈を撤回し、州立病院に引き渡すことができる。モントウィーラーの場合、1回目の撤回は2003年、オークションで購入したトラックの代金を踏み倒したときだ。警察の調書によれば、トラックには盗難ナンバープレートが装着されていた。それから1カ月も経たないうちに再び条件付き保釈の身となった。こうした判断は主に、モントウィーラーの担当ケースワーカーだったアリソン・ミルズの提言書に基づいて行われた。彼女はマルヒュア郡で精神医療サービスを請け負っていた非営利団体Lifewaysの職員だった。彼女は提言書に、モントウィーラーは州立病院で過ごした1カ月間で「行動を慎むべきだと思い知ったはずです。自由と敬意を奪われるのはあまりにも大きな代償ですから」と書いている。

ミルズとモントウィーラーは9年間、ほぼ毎週のように顔を合わせた。医療記録によると、彼女は心から彼を気遣っていたようで、しばしば彼の肩を持った。彼は「明朗で有能」だと、報告書にも書いている。「彼は問題解決が上手で、コミュニケーションにも長けています。勤勉で、目的意識もあります」。2005年、モントウィーラーは製材所から3000ドル相当の鉄屑を盗んだ罪で90日間拘留された。すぐにミルズはモントウィーラーに犯した罪について問い質した。彼は彼女に「他の連中みたいに『薬を飲んで、寝て、TVを見る』だけの生活をすれば、面倒は避けられるさ、と言いました」と彼女は記している(ミルズはこの件に関してコメントを控えた)。

Lifewaysの患者の1人ロベルタ・チャンドラーは、2003年にモントウィーラーと交際を始めた。彼がオンタリオに引っ越してすぐのことだった。「彼にぞっこんだったの」と彼女は言う。「彼は女王様みたいに扱ってくれる。誰にでも欲しいものを与えてくれるの。かと思うと、悪いトニーが出てくるの」。チャンドラーによれば、彼女のアパートで火事が起きたとき、トニーは彼女の飼っていた犬がハロゲンランプを倒したせいにした。保険申請書には「実際にあった家具よりも、余分に書き足しておけ、と言われました」と彼女。「保険会社が怪しんだので、結局一銭ももらえませんでした」

その後ミルズはモントウィーラーが放火魔かどうか、臨床心理士に鑑定を依頼した。予約時間に現れたモントウィーラーはTシャツにジーンズ姿で、顎髭を「綺麗に整え」、髪を短く刈り込んでいた。心理士によると、モントウィーラーは「放火については何の問題も示さなかったが、火事に繋がる行動についての判断力が欠けていた」という。「トニーは自分が欲しいものを手に入れるためなら、誰彼構わず利用して操っていたのよ」とチャンドラーも言っている。

Translated by Akiko Kato

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