カウンセラー視点で見たエンタメ業界の働き方

世界保健機関(WHO)は、職場での慢性的なストレスが原因の「燃え尽き」を、正式な診断が可能な「症候群」として分類しました。それを受けて、睡眠情報サイト「Savvy Sleeper」は最近、世界中の職場における燃え尽き度を世界53カ国69都市を対象に調査しましたが、東京は世界で燃え尽き度が最も高い都市でした。Blurの4thアルバム『Great Escape』収録の『Yuko & Hiro』という曲には日本語のコーラスが入っているのですが、その歌詞は「我々は会社で働いている/いつも彼らが守ってくれる/一緒にはたらく未来のために」というものでした。この歌詞の解釈は様々ありますが、これが日本社会を皮肉ったものとならないようにしたいものです。



また人には「生存バイアス」というものもあります。これは、成功した人、生き残った人がその経験に偏り、あるいは拘り、失敗した、生き残れなかった人を見過ごしてしまう現象です。もしかすると、ある人が過酷な環境・状況で成功したのは、たまたまその人が過剰適応しても問題が生じなかったり、単に運が良かったりしただけかもしれず、その背後や周囲には多数の犠牲者がいる可能性もあります。少なくとも、そうしたバイアスの存在を意識することは大切だと思います。

プロダクション等では「裁量労働制」を適用しているケースがありますが、これにも注意が必要です。裁量労働制とは、一定の専門的な業務で大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用されるもので、この場合は「みなし労働時間」以上働いても残業時間の上限規制を免除されます。厚労省によって対象となる19の業務が定められていますが、その中に「放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務」があり、それに音楽制作やイベント関連も含まれます。ただし、厚労省の通達によれば「プロデューサーの業務」とは「制作全般について責任を持ち、企画の決定、対外折衝、スタッフの選定、予算の管理等を総括して行なうこと」です。また「ディレクターの業務」は「スタッフを統率し、指揮し、現場の制作作業の統括を行なうこと」になります。いずれにせよ、自分の裁量で決められる立場と状況にあることが必要です。逆に言えば、自分で仕事の進め方を決められない人、上司等の誰かの指示で働いている人は、この対象になりません。「やりがい搾取」や「定額働かせ放題」と批判されるような違法な行為にならないように、こうしたことにも気を配るべきでしょう。

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