カウンセラー視点で見たエンタメ業界の働き方

ワープド・ツアーの創始者であり、南カリフォルニア大学の音楽校で教授を務めながら、メンタルヘルスの問題に長年取り組み続けているケヴィン・ライマンは、ストリーミング収益の大半をレーベルやデジタルディストリビューターが持っていく状況下で、アーティストたちが延々とツアーを続けることを余儀なくされている現状を指摘し「生活水準を保つために、彼らは以前の倍働かないといけなくなっている。彼らは大きな重圧に晒されています」と警鐘を鳴らしています。コンサートやツアーでの消耗は、アーティストだけでなく、そのスタッフについても同様です。アメリカの大手イベントプロモーター企業のLive Nationは「ツアーに出るアーティストの数がかつてなく多くなっている現在、長いツアーに出るアーティストやクルー、スタッフたちが抱える問題に目を向けることは不可欠になっています」と、最近、Music Industry Therapist Collectiveが発表した業界におけるメンタルヘルス改善ガイドの出版に出資しました。

日本でも2019年4月より「働き方改革」諸法が施行され、それに伴い、長時間労働が常態化しているコンサート・プロモーター業界も対応をはじめていますが、大型フェスなどのように24時間稼働するイベントの場合にスタッフを交代制で運営することによるコスト増の問題、中小企業の労務管理担当への負担増加による経営的な問題等もあり、これから業界内外で情報共有し、最善策を模索していくという段階のようです。しかし、業界として取り組みが始まっているのは大きな進歩だと思います。

アーティストにしろ、スタッフにしろ「好きだから長時間働いている」という意識も強くあります。そうした制作意欲の強さによって生み出された、素晴らしい作品やイベントもあると思いますが、どんなことでも、「行き過ぎ」には気をつけなければなりません。長時間労働による精神的ストレスと睡眠不足が要因で、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞につながることがわかっています。また、睡眠時間が約5時間半より短いと、抑うつ状態になるリスクが、7時間近くの睡眠を確保できた場合の3倍強になるという報告もあります。

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