ミュージックビデオの進化とYouTubeの15年

ビヨンセとレディー・ガガの登場

そしてビヨンセの登場。2008年、ビヨンセは2本のビデオを同時に公開したことで、偶然にもバズる動画を作る方法(と真似してはいけない方法)を世に示すことになった。これほど素晴らしい実験は他にあるまい。『I Am... Sasha Fierce』の収録曲で、どちらもジェイク・ナヴァが監督し、どちらもモノクロのミュージックビデオ。「If I Were a Boy」は、男女の立場を入れ替えた設定で、演出も凝ったコンセプチュアルな作品。一方「Single Ladies (Put a Ring On It)」は、懐かしのボブ・フォッシーを思わせるシンプルなダンスビデオで、真っ白なスタジオで撮影された。2本のビデオがTRLで立て続けに公開されたが、注目を浴びたのはひとつだけ。大々的ダンスブームを巻き起こし、翌年のビデオ・ミュージック・アワードを総なめにした。



「あんなにたくさんのパロディが出てくるなんて、誰も予想していなかったんじゃないかな」 後にナヴァ監督は「Single Ladies」についてこう語った。「ビヨンセの型破りな才能と、シンプル・イズ・ベストを証明したね」

ほどなくして、ガガが音楽シーンに現れる。メリーナ・マツォウカスやフランシス・ローレンス、ジョナス・アカーランドといった先見の明を持つ監督らと組んで、自らのビジョン――彼女が長年崇拝してきたニューヨークのクィアなアート系アウトサイダーを豪華絢爛に生まれ変わらせた。彼女のビデオが素晴らしいのは、バズらせるのに余計なギミックを使っていない点だ――彼女自身がギミックなのだ。これはジャクソンやマドンナの傑作ビデオにも言えることだ。だが「Paparazzi」や「Bad Romance」などデジタル志向のビデオと、初期のビデオを隔てているのは、派手さの中にもちょっとした不条理な瞬間が稲妻のごとくあちこち飛び交っていることだろう。『メトロポリス』風の松葉杖、モデルの死体、ミニー・マウスのメイク、バスタブでのデカ目、吊るされたクリスタル、モンスターの爪。ミームというものが存在する前から、ミーム的な要素が満載だ。



「Telephone」がリリースされる頃には、YouTubeはVevoとすでに業務提携を結んでいた。Vevoはユニバーサル、ソニー、EMIの合弁会社で、3社はここから直接広告収入を得ることができ、ひいてはYouTubeもミュージックビデオの主要プラットフォームとして業界からお墨付きを得た。その後数年間で、ミュージックビデオ文化も進化を遂げた。雇われVJの裁量とレーベルの投入資金で決まるMTVのローテーションに組み込む代わりに、ミュージックビデオはアラカルトでアクセスできるようになった。インターネットさえあれば、いつでも好きなものを好きなだけ見られるようになったのだ。

ビジネス的にはミュージックビデオの再生回数は重要だが(2013年以来、ビルボード・シングルチャートのランキングにも反映されるようになった)、YouTubeに投稿されたミュージックビデオがどうカルチャーに広まるかは、必ずしも再生回数だけが問題ではない――むしろYouTube以外のメディア、TwitterやReddit、あるいは実生活での浸透具合にかかっている。そこへやってきたのが、Psyの「江南スタイル」現象だ。2012年、このビデオはティーンエイジャーやネット市民の笑いのツボを全て押した。レディー・ガガのビデオ同様、「江南スタイル」にも(ソウルのエリート層をおちょくるという)強いメッセージの上に、ちょっとした笑いや遊び心が散りばめられている。社会風刺は韓国以外のユーザーにはピンとこなかったが、笑いとバカバカしさはしっかりヒットした。



Translated by Akiko Kato

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