片乳ポロリがYouTubeを生んだ? 2004年のニップルゲート事件が世界を変えた

ハプニングから生まれたサービス、死んだサービス

YouTubeの勢いはさらに増した。そしてニップルゲートはNetflixなどのストリーミング、見放題サービスへと続いていった。当時のNetflixは、まだDVDの宅配サービスを行っていた。だがNetflixのロバート・キンセル(YouTubeの現最高業務責任者)は時代の変化に気がついていた。「YouTubeは、人々が丁寧さよりも利便性とスピードを重視していることを如実に物語っている」と、自著『YouTube革命 メディアを変える挑戦者たち』の中で述べている。「YouTubeの人気を目の当たりにしたことは、まさに啓示だった」。 Netflixは2007年にストリーミングサービスを開始。近所のブロックバスターが閉店したのも、ちょうど同じ頃だ(最後にこの店でレンタルしたDVDは『俺たちニュースキャスター』だった)。

今日に至るまで、ニップルゲート事件の真相は謎のままだ。なぜ起きたのか、どの程度まで事故だったのか、一体誰の責任なのか、詳細は未だ語られていない。だがワシントンD.C.でパニックになっていた共和党の連中にはチャンス到来――黒人女性の身体が、国民の良識を脅かす全てのものの象徴とされた。コリン・パウエル元国務長官の息子で、連邦通信委員会を取り仕切っていたマイケル・パウエル氏は、ここぞとばかりにジャネットをやり玉に挙げる大衆を先導した。「数百万人のアメリカ国民同様、私も家族と一緒に、祝祭のためにテレビの前に集まっていました」と、彼は翌朝会見でこう述べた。「しかし祝祭ムードは、下品で、破廉恥な、けしからぬ振る舞いで汚されてしまったのです」。 彼は連邦捜査を開始したが、 捜査の結果を待たずして自ら審判を下した。「こうなることを知っていた人物がいたのは明らかです」と彼はCNNで語り、さらに胸糞が悪くなるような気味の悪い口調でこう付け加えた。「恐らく彼女は、狙い通りの結果を手に入れたことでしょう」

今でも、ジャネットの失われた年月を思うと胸が痛む。あの騒動で、MTVもやっと音楽事業そのものから身を引く決断を下した――手間暇かけて、自分たちの力の及ばないポップスターを宣伝して、その結果どうだ? MTVは音楽事業から撤退し、『My Super Sweet 16』『ラグナ・ビーチ』『ザ・ヒルズ』『Teen Mom New Jersey』だのに方向転換してしまった。ハーフタイムショーのスポンサーがAOL――当時インターネットの未来だと謂われていた――だったのも、皮肉としか言いようがない。だが同社は翌日、「AOL及びAOL.comは、予定していたハーフタイムショーのインターネット配信を見送ります」と発表。この点に関しては彼らは正しかった。AOLの時代は終わり、新たな時代が幕を開けた。大勢の夢が、衣装の不具合と共に消えた。だが、そこからYouTubeが始まったのだ。

Translated by Akiko Kato

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