「ヒット曲の法則」でAIがアーティスト発掘、米新レーベルの挑戦

最新のデータ分析手法を導入しようとするレーベルについてデサイは、「せっかく21世紀の最新テクノロジーを導入しても、運用する組織自体が20世紀の機械のように時代遅れだと感じることが時々ありました」と言う。彼は、Universal Music GroupやCapitol Recordsでデータ分析を担当した経験を持つ。「導入した時はこれぞ未来のテクノロジーだと実感し、前進しようと努力しているのでしょうが、どんな大企業でも変革期に必ず経験する問題に直面しているのだと思います。その点テクノロジーを中心に据えたSnafuは、他の企業よりも早く問題を解決できるでしょう」。

2018年から活動開始したSnafuは、16組のアーティストと契約している。最近ではコスタリカのエレクトロポップ・シンガーソングライターのMishcattと契約するなど、急速な成長を遂げている。Mishcattは、Spotifyの再生回数がわずか数ヶ月の間に数万回に達する注目のアーティストだ。しかしSnafuとしては、自らが推進するデータ重視のアプローチが本当に有効かどうかを証明するために、さらなるヒットを飛ばす必要がある。

音楽業界をはじめ伝統的に変化を嫌う業界では、テクノロジーへの過度の依存に対する反発があるだろう。楽曲がどのようなファン層に受けるかをボット(自動プログラム)に判断させるやり方に懐疑的な人たちは多い。しかしSnafuの立ち上げ以前にも業界内の懐疑的な声を耳にしてきたデサイは、テクノロジーに対する批判を危険視している。「A&Rを不可侵のブラックボックス化し、データ分析を持ち込むことで本来持つマジックを奪ってしまうのではないか」という批判の声もあった、と彼は言う。「しかし私たちの見方は違っていました。人々が聴くべき楽曲を私たちが決めることができるでしょうか? 結局、数字やデータが示すのは、実際にどれだけ売れたかという結果なのです」。

ローリングストーン誌が取材した中には、テクノロジーを利用したアーティスト発掘のプロセスを有用なツールとして、概ね肯定的な意見を持つA&R担当者も少しはいた。ところが『Old Town Road』のような楽曲が登場し、全てが変わった。各レーベルは口コミによるアプローチをますます無視できなくなってきている。RCAでA&R部門のディレクターを務めるカール・フリッカー曰く、多くのレーベルが『Old Town Road』の成功プロセスを逆行分析し、大ヒットを生み出すためのヒントを得ようとしているという。

フリッカーは『Old Town Road』のリル・ナズ・Xについて、「文字通り無名の状態からナンバー1ソングの大ヒットメーカーにまで上り詰めた大変革」と評している。「しかしヒットを予想できたはずの予測方法を使った訳でもなく、つまりアルゴリズムでヒットしたのではありません」と指摘する。それでも各レーベルは、Snafuのように実験的なスタートアップに注目し続けている。「決して無視はできません」と彼は言う。「データは市場の動きを反映したものであり、押さえておくべき重要項目のひとつです。さらに直感力を強化してくれます。誰でも一般大衆の動きを把握したいと思うでしょう。ティーンエイジャーが今何を感じているかを把握し、彼らの好みを言い当てることなどできるでしょうか? テクノロジーはその部分を補ってくれるのです」。

Translated by Smokva Tokyo

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