1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究

「ラグタイム王」と呼ばれるピアニストで作曲家のスコット・ジョプリンが1909年に発表した「Solace」にはハバネラが使用されています。また、「ブルースの父」と呼ばれるW.C.ハンディ(父は言い過ぎでしょという話もあるそうですが)が1914年に記譜した「St. Louis Blues」のイントロや中間部分でハバネラが使われているのは有名な話です。他にも、「ストライドピアノの父」と呼ばれ、ラグタイムとジャズの橋渡しをしたとも言われるピアニストで作曲家のジェイムズ・P・ジョンソンが1929年に発表した「Charleston」の左手のパターンにもラテンの影響が指摘されています。トレシージョの3つ目の音、つまり「3-3-2」の最後の2のグループを抜いたリズムとなっています。

時代は下りまして1950年頃のニュー・オーリンズ産の楽曲にもラテン的な香りを嗅ぐことができます。例えばプロフェッサー・ロングヘアの「Mardi Gras in New Orleans」のベースのパターンはやはりトレシージョです。デイヴ・バーソロミューの「Country Boy」ではホーン隊のフレーズがトレシージョとなっております。ファッツ・ドミノの代表曲「Blue Monday」のホーン隊のフレーズはハバネロを6/8拍子にアダプトしたものと見なすこともできるでしょう。

フィル・スペクターの師匠筋にあたるソングライターコンビ、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーもラテン的なリズムを導入しています。彼らの初期のヒット曲で、後にエルヴィス・プレスリーの代表曲にもなったビッグ・ママ・ソーントンの「Hound Dog」はベースがトレシージョを土台にしたフレーズを演奏しています。後に一大ヒットとなったエルヴィス版のアレンジにおいてもベースはやはりトレシージョで演奏しています。

ストーラーは子供の頃に、マンハッタンのスパニッシュ・ハーレムと呼ばれるラティーノ・コミュニティで聴いたパーカッションの演奏に魅了されたそうです。その後、ロサンゼルスに引っ越しますが、そこでもチカーノ・コミュニティに出入りしていたとのこと。彼はパチューコと呼ばれるチカーノ系ヒップスターたちのライフスタイルに憧れて彼らのダンスを学んだりしたそうです。

リーバー&ストーラーがプロデュースしたザ・ドリフターズにもラテンの影響が顕著に表れています。例えば「The Goes My Baby」には2-3クラーベが感じられます。さらに、2-3クラーベの後半部分はハバネラ的なパターンになっています。また、マン&ウェイルと共作の「On Broadway」のリズムには先述の「Charleston」と同様のトレシージョの3つ目の音を抜いたパターンが使われています。ちなみにこの曲でギターソロを披露しているのはフィル・スペクターです。他にも、ゴフィン&キングが提供した「Up On The Roof」や、元ドリフターズのベン・E・キング初のヒットとなったスペクターとストーラーが共作した「Spanish Harlem」にはハバネラ的なリズムパターンが感じられます。こうした「ドンドドンパン」というリズムをどうも彼らは「バイヨン」と呼んでいるようです。

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