テーム・インパラ『The Slow Rush』を考察「頂点を極めたバンドの音楽的フリーダム」

テーム・インパラのケヴィン・パーカー(Photo by Neil Krug)


「時間」というテーマと心境の変化

他方で従来の作品から変わっていない要素と言えば、彼のファジーな歌声だ。その歌声が我々に教えてくれていることも、サウンド表現以上に興味深い。なぜって未だミステリアスなところがあるケヴィンに、パーソナルなレベルでこれほど深く共感できる作品はなかったと思うのである。そう、彼が今回掘り下げているテーマは、タイトルのみならず砂が降り積もったジャケットも示唆している通りに、ずばり“時間”だ。アルバムは“あと1年(『One More Year』)”と題された曲に始まり、“あと1時間(『One More Hour』)”と題された曲で幕を閉じて、未来への不安、老いと死、記憶、ものごとの無常性などなど、時間の経過がもたらす心境の変化を様々な切り口で論じ、自分が本当に必要としているものと不要なものを見極めている。


Photo by Neil Krug

「それは、“わあ、時間がどんどん過ぎていく”というフィーリングだね。残りの自分の人生が、突如垣間見えたような気がして。『100年の孤独』を読んだかい? 最後のページに辿り着くまで結末が分からなくて、歴史は繰り返される運命にあるのだという気持ちに圧倒された。小さな町で暮らす一組の家族を100年にわたって代々描いていて、読み終えた時の僕は、言葉では表せない感慨を抱いた。それが、このアルバムで僕をインスパイアしてくれたんだよ」

ケヴィンはそうガブリエル・ガルシア=マルケスの大作に言及しているが、彼が今このテーマを取り上げた理由は、ほかにも容易に考えられる。例えば現在34歳のケヴィンにとって『The Slow Rush』は、30代になって初めてのアルバムであること。18年秋にマリブの自宅を多数の機材もろとも火事で失ったこと。昨年結婚したこと。彼はテーム・インパラ流のピアノ・レイヴと呼ぶべき「One More Year」で“1年前にここに立っていたことを覚えているかい?”と問いかけて時計の針を戻し、早速本題に切り込む。そしてソフトロック調の「Instant Destiny」は、時間を無駄にせずに果敢にクレイジーなことに挑みたいという決意を覗かせ、「Lost In Yesterday」では、時間と共に変質する記憶との付き合い方を指南。自分を縛る思い出であれば、消して新しいものと置き換えればいいじゃないか――と。また、スーパートランプ愛がさく裂する「It Might Be Time」でのケヴィンは、自分がもう若くないのだという事実を受け入れていて、じゃあこれからどう生きるべきなのかと自問しているのが「One More Hour」だ。




過去から解き放たれたケヴィン・パーカー

そんな実存的Q&Aを繰り返すアルバムのセンターピースは間違いなく、6分以上に及ぶテーム・インパラ史上初のパワー・バラード。『Innerspeaker』のレコーディング中に亡くなった父への想いを込めた「Posthumous Forgiveness」だ。ケヴィンの父は音楽を愛し、彼に多大な影響を与えたという。しかし、親子の関係は非常に複雑だったことをこの曲は伝えており、英雄視していた父の弱さに気付いた息子は、裏切られたことへの怒りと悲しみを吐露するのだが、曲は途中で軽やかに転調。生前にわだかまりを解消できなかったことを悔やみ、最後には父を許して、“僕の曲を全部あなたに聴かせたい、一緒に歌うあなたの声を聴きたい”と歌いかける。男性アーティストが父に捧げた曲としては、U2の「Sometimes You Can’t Make It On Your Own」と「Kite」、もしくはルーファス・ウェインライトの「Dinner At Eight」などに並ぶ名曲であり、時間がもたらす癒しを見事に描き出していると言えよう。

音楽的な縛りから解放され、自分の過去からも解放されて、どんどん身軽になっていくケヴィン。一時は、もうアルバムを作って自分の能力を証明する必要性を感じなかったとまでいうが、そういう意味でも荷を軽くして、これからはただ自分が好きな音楽を作っていけばいいのだと悟った人のフリーダムが、本作には漲っている。






テーム・インパラ
『The Slow Rush』
2月14日リリース

試聴・購入リンク
https://caroline.lnk.to/SlowRush

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