女性シンガー・ソングライターの先駆者、りりィの軌跡をプロデューサー寺本幸司が語る

「見つけてくれてありがとう」

田家:続いてお聴きいただいているのが1974年のアルバム『タエコ』の1曲目「水の音」ですが、この曲を選ばれた理由に「これがりりィだと思う」とコメントしてらっしゃるんですが。

寺本:石をぶつけられるような少女時代を迎えて、僕と出会ってこの世界に入りバイ・バイ・セッション・バンドに出会って、『わたしは泣いています』っていう80万枚も売れた作品もあって。テレビにも出るようになり、そういう時にふと、りりィが1人になった時に作っただと思うんですよ。これを僕は傑作だなと思うんですよ。いろいろなことがあったけど、1人になって感じる世界がこの曲の心境に詰まっていると思いますね。

田家:寺本さんが先週、言われていた“心境ソング”で感動できる何かがないとプロデュースしたいという思いにならないのかもしれませんね。

寺本:だと思いますね。りりィのいろいろな場面を見てるし、攻めぎ合ったり抱きしめてきましたから、たった1人になったりりィがこういう歌を作るんだなっていうのがね。それが僕の中で良かったな、だからりりィは存在してるんだなって証明になるような曲ですね。

田家:この「水の音」はですね、1974年のアルバム『タエコ』に入っているわけでりりィの最高傑作のアルバムは『Dulcimer』ていう人と、『タエコ』っていう人で分かれますよね。寺本さんの中ではどういう思いでしょう?

寺本:どちらがというのは言い難いですけど、完成度は『Dulcimer』の方が高いでしょう。『タエコ』の方は雑然とだけども色々なものが入っていて、煌めきとかもある。この2枚がりりィの中で最高峰のアルバムだと思ってます。

田家:改めてりりィを聴きたいっていうお若い方もいらっしゃるでしょうが、そういう方にはこの2枚を聴いてくれということでしょうね。他のシンガー・ソングライターに比べて、りりィにしかないものっていうのがあるとしたらら何でしょうね。声とか生き様とか。

寺本:そうですね。まあその後に結婚して子供もいて、子供もギタリストになってからりりィ本人もまた女優の道に戻るんですけど。歌の世界とドラマを演じてから家族を持つことによって、1人っていう世界から抜け出したような気がしますね。

田家:彼女が音楽を通じて成長していった姿が、他の人にはないものだと。いろいろな場面の中でりりィとの最後の思い出ってどういったものでしょう?

寺本:3年前の11月に亡くなったんですけど、その時、鹿児島の方に半年くらいいて、肺ガンと闘病していてもう難しいなっていうのが自分でも分かっていたんでしょうね。もう一回、自分の住んでいた千葉県の鴨川に帰りたいと言っていまして。鹿児島を離れる前の日に、息子さんや事務所の方に向けて遺言を書いているんですよ。僕には一言ね、「見つけてくれてありがとう」って来たんですよ。「何言ってんだ!」ってすぐ返したんですけど、それが彼女が僕にくれた遺言です。

田家:プロデューサー冥利に尽きますね。お聴きいただいたのは1974年のアルバム『タエコ』から「水の音」でした。

・りりィ「水の音」


田家:『J-POP LEGEND FORUM』寺本幸司Part.2、日本の音楽プロデューサーの草分け寺本幸司を特集する1カ月。今週はりりィさんのお話を色々と伺いました。流れているのは、この番組の後テーマ竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。りりィのキャリアを辿ってきて、1975年のアルバム『ラブ・レター』はLA録音なんですよね。で、イルカの同じ頃の作品も寺本さんがおやりになられているでしょう。イルカとりりィを同時期にやられていた。そういうタイプが違う2組をどういう風に思ってらっしゃるんでしょう。

寺本:LAはバイ・バイ・セッション・バンドと一緒に行ってレコーディングして、どういうプレイをするのかっていうのが興味あったし。イルカは向こうのミュージシャンを使って、イルカが欲しい最大のサウンドを作ったという意味で全く違います。

田家:なるほど。シンガー・ソングライターとしての在り方やイメージも違いますもんね。そういうりりィのことで知って欲しいっていうことがあれば是非。

寺本:浅川マキが世界中で浅川マキ知られるようになったのが、3年前にイギリスのウィリアム・ハワードって人が『Maki Asakawa』っていうイギリス盤を作って世界発売をしたんです。そのウィリアム・ハワードが去年の5月に日本に来まして、りりィのアルバムを作りたいということで話をして。今年の5月に2枚組で出すっていうは話が進んでます。

田家:なるほど、海の向こうからりりィの再評価の波が来そうです。2月15日には金沢で浅川マキさんの追悼ライブも行われます。来週もよろしくお願いします。

寺本:観光してきます(笑)。


<INFORMATION>

寺本幸司
音楽プロデューサー等。浅川マキを皮切りに、りりィ、桑名正博、下田逸郎など、個性的なアーティストを多く手がける。

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソナリティとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
OFFICIAL WEBSITE : https://cocolo.jp/
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