幻覚剤セラピーやエネルギー療法、オスカー女優が「トラウマ克服」語る怪しい健康法

グウィネス・パルトロー(左)とエリーズ・ロウネン(Adam Rose/Netflix)

オスカー女優のグウィネス・パルトローが主宰するライフスタイル事業「Goop(グープ)」がNetflixで番組化。『グウィネス・パルトローのグープ・ラボ(原題:Goop Lab)』の番組説明欄にはこう書いてある。「好奇心旺盛なグウィネス・パルトローとグープ社のスタッフが、幻覚剤セラピーやエネルギー療法などを自ら体験し、健康に関するトピックを掘り下げる」

グウィネスは長い年月をかけ、法外な値段のふざけた商品や、直接害は及ぼさないものの医学的には怪しいセラピー治療を勧めるなどして、10億ドル相当のブランドを築き上げ、同時にインターネット市民を激怒させてきた。オーガズムの増強と膀胱コントロールの改善を謳った(婦人科医がいうには細菌感染を引き起こすであろう)「ヴァギナエッグ」で虚偽の宣伝をしたとして、14万5000ドルの罰金の支払いを命じられたほどだ。

同社は2018年に事実確認の専任者を雇い、今回の新番組『グウィネス・パルトローのグープ・ラボ』では冷凍療法から治療目的での幻覚剤使用まで数々の健康法に光をあて、驚くほど大量の研究やら専門家やらを引用している。中には正しいと思われるものもあるが、バーニングマンのドレッドロックの白人青年のように、博士号を取得したようには見えない者もいる。その上、この番組は「娯楽と情報提供」を目的としたもので、医学的アドバイスを提供するものではありませんという但し書きは、科学的に怪しい主張を提供してもGoopには倫理的責任はありませんよ、と言っているかのようだ。



ただ、番組の主張の一部は、とんでもない危険を引き起こす可能性もある。今回我々は番組をチェックして、なかでもとくに常識外れな健康法の事実確認を行なってみた。

その1:マジックマッシュルームは鬱や不安症の治療に役立つ。

初回エピソードはGoopのスタッフがジャマイカへ赴き、幻覚作用をもたらすマッシュルームを摂取して、様々なトラウマを癒すというもの(ただし、スタッフの1人も認めているが、彼女は「本当の自分」らしさを感じたくて挑戦した)。マッシュルームを煎じたお茶を飲み、バカ正直なミレニアル世代の同僚と床に突っ伏してさめざめと泣く、というのは決して楽しそうとは言えないが、治療目的で幻覚剤を服用することは精神疾患の現場でも徐々に注目を集めている。実際のところ食品医薬局(FDA)も、PTSDの患者向けにメチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)を併用した心理療法の臨床治験を先月全米10カ所で承認したばかりだ。番組でもパルトローと共同エグゼクティヴプロデューサーのエリーズ・ロウネンが、カナダの幻覚剤学際研究学会(MAPS)のエグゼクティヴディレクター、ビル・ヘイデン氏にインタビューしている。この学会は幻覚剤の研究に資金援助し、業界をリードする権威のひとつとして広く知られている。2人はまた、PTSDの症状緩和のためにMDMA療法を試したという退役軍人など、研究(小規模だが)や臨床治験の参加者にも話を聞いた。従来の治療とMDMA療法を組み合わせると、PTSD患者が感情を処理して上手く対処できるようになる、という証拠もある。

たとえ治療目的であっても、違法薬品の研究には法的な障壁がある上、幻覚剤を併用した治療がメインストリームで受け入れられない一番のハードルは、幻覚剤全般をニューエイジのエセ科学とみなす風潮だろう。事実、Goopのスタッフがジャマイカでシャーマンやお香とブッとんでるシーンは、そうした風潮を払拭させてはくれない。さらに、MASPで訓練を受けた心理療法士ウィル・シウ氏が、幻覚剤を併用した治療が関心を集めているのは抗うつ剤の「ひどい副作用」のせいだ、と言うパートは眉唾物で、誤解を招きかねない(「抗うつ剤」と一口に言っても、副作用は人によってさまざま。それにMDMAのような幻覚剤は高血圧や体温上昇、吐き気、失神などを引き起こすケースもあり、MDMAに悪い副作用が全くないと示唆するとんでもない間違い)。だが全体的には、幻覚剤を併用した治療の研究が、初期段階とはいえ一部の人々に幅広い恩恵をもたらすことがある、という事実については『グウィネス・パルトローのグープ・ラボ』は正しいといえる。

Translated by Akiko Kato

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