新型コロナウイルス、米国内で拡散されたデマと陰謀論

中国人の食習慣を揶揄したものも

2:政府は公表していないが、コロナウイルスのワクチンまたは治療法は実は存在する。

現在世に出回っている1月22日付のFacebookの投稿は、疾病管理予防センターが申請したコロナウイルスのワクチンと思われる特許のスクリーンショットつきで、ワクチンで製薬会社の懐を潤すために政府がウイルスを広めた、と主張している。パッと見ただけでナンセンスであるばかりか(名前の通り、新型コロナウイルスは新種なので、すでにワクチンが存在しているわけがない)、スクリーンショットされた特許は重症急性呼吸器症候群(SARS)のものだった。これはやはり中国で発生した別のタイプのコロナウイルスで、2002年から2003年にかけて数百人が死亡した。企業がn-Covのワクチン開発に資金援助を受けたという報道はあったものの、今のところ「(武漢の)ウイルスはおろか、どんなコロナウイルスのワクチンもありません」と、ジョン・ホプキンス大学の健康安全保障センターの上級研究者、アメッシュ・アダルジャ氏はPolitiFactに語った。

3:コロナウイルスの発生源は、こうもりを食べる中国人。

コロナウイルスの大半が哺乳類から発生していることと、現時点で2019-nCoVは武漢の家畜市場で発生したと推測されていることから、ソーシャルメディアでは大勢の人々が、こうもりを好んで食べる一部中国人の嗜好が世界の公衆衛生危機を引き起こした、という説に飛びついた。この推測は、こうもりやコウモリスープを食べている動画が多数拡散したことでさらに助長された。「ボウルの中にあるコレ、死そのものじゃない?」と中国語で書かれた投稿には、2000件以上のいいねがつけられた。動画はたちまちタブロイド紙や保守派のブログに取り上げられ、「客観的にみてもまずそうなスープがコロナウイルスの蔓延の原因か?」といったような、断定を避けた非西欧中心的な見出しとともに掲載された。ソーシャルメディアのユーザーも似たような反応を示し、動画に対する恐怖を口にした。「君たち中国人はこんなもの食べて健康になると思ってるのかい? 冗談はよせ」と、とあるツイートには書かれていた。

もちろん、こうもりのような小型哺乳類を食する文化が一部中国に存在しないわけではないが、それが当たり前というわけでもない。3億人以上の人口を抱える国でこれが普通だと言い切るのは、控え目に言っても極論が過ぎる。2016年の中国国内飲食店の調査データによると、こうもりが発生源とみられる2002~2003年のSARS大流行以降、変わった動物を食べる習慣はずいぶん少なくなったという(もっとも研究者らは、SARSウイルスはネコ科の大型動物であるジャコウネコを介して人間に伝染したと考えている)。さらに言えば、こうもりを食べたことでコロナウイルスにかかったという証拠もない。政府当局いわく、2019-nCoVの検査で陽性反応が出た人の多くは、感染前に生きた動物と接触していなかった。医学雑誌Journal of Medical Virologyの記事にも、ヘビが感染源ではないかと書かれている。

結論からいうと、2019-nCoVの原因や感染経路についてはまだはっきりわかっていない。だがひとつ言えることは、ウイルスを国全体の食習慣のせいだと決めつけるのは間違っているうえに、非常に無礼でもある。「単に、変わった動物を食べるだけではないんです」と、シドニー大学の世界衛生安全を専門とするアダム・カマレード-スコット助教授は、タイムス紙に語った。「文化的風習を取り上げたり、批判するときは注意が必要です」。変わった動物を食べる風習は、国全体に残る飢饉や食糧不足の記憶に由来していることからも、まったくその通りだ。政治経済学者の胡星豆氏もニュージーランドヘラルド紙にこう語っている。「中国の人々は、食べ物が最重要事項だと考えています。飢えが一番の脅威で、忘れられない記憶として国民に残っているからです」と胡氏。「今の時代、多くの中国人にとってお腹を満たすことは大問題ではなくなりました。とはいえ、奇妙な食材や、珍しい動物の肉や臓物、植物の一部を食べることを、アイデンティティの物差しにしている人もいるのです」

Translated by Akiko Kato

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