米国の人種間分断、ハーフタイムショーでラテン系歌姫が出演した理由

エメがブルース・スプリングスティーンの反逆者のアンセム「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を歌いだすと、米国国旗を彷彿とさせる羽のマントをまとったロペスがステージに再登場。マントの下からプエルトリコの国旗をのぞかせ、スペイン植民地という歴史があってもプエルトリコがいまも米国の一部であることをオーディエンスに知らしめた。ロペスの行動は、とどまるところを知らない気候危機被害をもっとも強く受け、トランプ政権とプエルトリコ知事のワンダ・バスケス・ガルセドの甚だしい怠慢に苦しむ一部のプエルトリコの人々の心に響いた。

「ラティーノのみんな! 一緒に騒ごう!」とロペスは声を上げた。

グランドフィナーレでロペスとシャキーラは、スタジアムにふさわしく、カメルーンのバンド、ゴールデン・サウンズの楽曲を米国向にアレンジした2010 FIFAワールドカップのアンセム「Waka Waka (This Time for Africa)」を披露した。終盤のチャンペタと元気いっぱいの腰振りダンスを終えると、歌姫たちは勝利を祝して真心こもった大きなハグを交わした。ハーフタイムショーが終わる頃には、フロリダ州元知事で現在は共和党の大統領候補者であるジェブ・ブッシュが珍しくもTwitterで「史上最高のスーパーボウルハーフタイムショー」と絶賛した。

だが、スーパーボウルはいつの時代も米国の人種をめぐる緊張感がかき立てられ、フィールドからテレビ画面に映し出される現代の円形闘技場コロシアムであることに変わりはない。カンザスシティ・チーフスファンが、先住民族がおのを振り下ろすしぐさをモチーフにした“トマホーク・チョップ”は、米国中で起きている先住民族の大量虐殺を軽視する何よりの証拠だ。トランプ支持者としてもてはやされたNFL選手もいれば、警察暴力に抗議して退団を強いられた選手もいる。結局のところ、私たちはもはや何を言われても驚かなくなってしまった。スーパーボウルには、ビル・オライリー、タッカー・カールソン、ローラ・イングラムといった、自らが司会やコメンテーターを務める番組を使って平然と偏見を煽る批評家連中のキャリアを支援しているのと同じ企業が関わっているのだ。成長の可能性がほぼ毎回踏みにじられるようなこの状況で、どれだけの改革が望めるというのだ?

実際、今回の試合は米国分断をさらに悪化させた。その一方、15分というわずかな時間に何百万人もの視線がラティーナたちに注がれていた、という事実を見くびることはできない。それもただのラティーナではない。声を大にするラティーナだ。母であると同時に女性としてのセクシャリティを自信満々に受け止め、移民虐待に反対し、ラテンアメリカの人種と文化の多彩さをアングロサクソン系米国人に教えてくれる女性たちだ。とりわけ彼女たちのような存在は、まだメディアでは十分に注目されていない。だが、いつかはジェンダー、人種、階級、市民権を超えて人々がありのままの姿で受け入れられる時代が来ることを願いたい。こうした使命は——その使命を自ら選び、守ると決めたなら——NFLのハーフタイムショーをきっかけに始まるのでもなければ、決してそこで終わってしまってはいけないのだ。




スーパーボウルLIVハーフタイムショーのセットリスト
「シー・ウルフ」(シャキーラ)
「エンパイア」(シャキーラ)
間奏:「Ojos Asi」&レッド・ツェッペリン「カシミール」リミックスバージョン(シャキーラ)
「Whenever, Wherever」(シャキーラ)
「I Like It」(シャキーラ&バッド・バニー)
「Chantaje」&「Callaíta」リミックスバージョン(シャキーラ&バッド・バニー)
「ヒップス・ドント・ライ〜オシリは嘘をつかない」(シャキーラ)
「ジェニー・フロム・ザ・ブロック」(ジェニファー・ロペス)
「エイント・イット・ファニー」(ジェニファー・ロペス)
「ゲット・ライト」(ジェニファー・ロペス)
「Waiting for Tonight」(ジェニファー・ロペス)
「Booty」、「El Anillo」、「Que Calor」リミックスバージョン(ジェニファー・ロペス&J・バルヴィン)
「Mi Gente」(ジェニファー・ロペス&J・バルヴィン)
「On the Floor」(ジェニファー・ロペス)
「Let’s Get Loud」(ジェニファー・ロペス、エメ・マルベリ・ムニス&チルドレンズ・ヴォイス・コーラス、シャキーラ[ドラム])
「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」(エメ・マルベリ・ムニス)
「Waka Waka (This Time for Africa)」(シャキーラ&ジェニファー・ロペス)

Translated by Shoko Natori

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