アンディ・シャウフが静かに提示する、シンガー・ソングライター表現の新しいかたち

2020年の最新作『The Neon Skyline』ではアンディ・シャウフは再び、ストリングス以外の全楽器をひとりで演奏している。だが、冒頭のタイトル曲はギター・ストロークによるわずか8秒のイントロで歌い出され、少しストレートに、少しアメリカっぽくなったようには思わせる。演奏もフォックスウォレンの経験を反映して、バンド的なドライヴ感を増したようにも感じられる。『The Party』の曲はほとんどがピアノで作曲されたそうだが、本作はギターで作曲された曲も多いのかもしれない。ボブ・ディランやポール・サイモンの系譜を感じさせる曲想が少なくない。

とはいえ、聴き進んでいくうちに、器楽的な構成を重視する彼の音楽の在り方には変化がないことが分かる。曲の間奏部なども優れてメロディックに作曲されている。スキャット・ヴォーカルがしばしばキャッチーな決めとなることもあって、歌ものなのにインストゥルメンタル作品のように聴ける心地良さも備えている。声を楽器のように、楽器を声のように扱って、ひとつひとつトラックを重ねていく。そんなプロダクション・スタイルをシャウフは完全に確立しているのだろう。クラリネットとストリングスがそんな彼の重要な絵の具であることも変わらない。





その一方で、シャウフの書く歌詞はこれまで以上に、文学的なストーリーテリング性を増している。『The Party』はひとつのパーティーに集まる人々の人間模様を描き出すというコンセプトだったが、『The Neon Skyline』では同名のバーでの一夜の物語が描かれていく。友人のチャーリーとバーで飲み始めた主人公は、昔の彼女だったジュディが町に戻ってきたことを知る。そこからのバーでの出来事や主人公の回想が、曲として綴られていく。シャウフは多分、自分の感情をストレートに表出させるのは苦手なタイプなのだろう。フィクショナルなストーリーを編み上げる中に、複雑な感情をそっと忍び込ませる。歌手としては淡々と歌うことに撤しているのも、そんな彼の作家性と結びついたスタイルに違いない。

短編小説のような曲を書くことにおいては、シャウフはランディ・ニューマンに強い影響を受けているようだ。だが、『The Neon Skyline』を聴きながら、僕が思い出したのはジョニ・ミッチェルの「A Case Of You」のことだった。「River」と同じく、1971年のアルバム『Blue』に収録されたジョニの代表曲のひとつ。そして、これも酒場を舞台にした歌だ。



「A Case Of You」の主人公はバーのカウンターでひとりグラスを重ねる女性。そして、彼女はコースターの裏側にカナダの地図を描く。別れた彼と故郷のカナダへの想いが、この曲では重ね合わされている。ジョニがダルシマーを弾きながら歌う「A Case Of You」は透明感に富んでいるが、歌詞の中の彼女は泥酔しているかもしれない。「A Case Of You」のケースとは、ワインの1ケースを指すものでもあるのだ。

『The Neon Skyline』ではアルバムの途中で別れた彼女もバーに現われ、主人公は揺れに揺れる。だが、アルコールの底に沈んでいくような物語を描きつつも、シャウフの歌はリリカルで、最後まで端正さを失うことはない。そんなところにも、僕はカナダのシンガー・ソングライターの伝統を見るような気がしている。


Photo by Colin Medley




アンディ・シャウフ
『The Neon Skyline』
発売中
配信リンク:https://andyshauf.ffm.to/theneonskyline

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