ハーヴェイ・ワインスタイン裁判、押さえておくべきポイント

ニューヨーク州最高裁判所を後にするハーヴェイ・ワインスタイン被告 次から次へと女性たちが不正行為を非難し始めててから2年半、被告は強姦および性的暴行の罪に問われている。(Photo by Seth Wenig/AP/Shutterstock)

2017年にMeToo運動が始まる以前、ハーヴェイ・ワインスタイン被告は授賞式シーズンの主力プレイヤーだった。悪名高い過剰な宣伝活動で彼が運営する制作会社Miramaxを応援し、賞の行方を大きく左右した。だから賞レースシーズンの目玉のひとつ、ゴールデングローブ賞授賞式の翌日に彼の刑事裁判が始まったのは、いかにも彼らしいと言えるだろう。授賞式のレッドカーペットでは彼の不在がひしひしと感じられた。

1月6日、ワインスタイン被告は強姦、略奪的性的暴行など5件の性犯罪刑事起訴でニューヨークシティの裁判所に出廷した。裁判は6~8週間ほど続くとみられ、世界中から200人の報道陣が取材に駆け付けることになる。

もし有罪となれば、略奪的性的暴行罪1件でも最大で終身刑が求刑される可能性がある。だが有罪判決か否かに関わらず、この裁判はMeToo運動の歴史において記念すべき瞬間となる。この運動で名指しされたハリウッド業界の大物が、ついに刑事裁判で裁きの場にかけられるのだから。

・ハーヴェイ・ワインスタイン被告の起訴内容は?

過去数年間、MeToo運動でワインスタイン被告に向けられた疑惑は80件を超えるものの、67歳の映画業界のドンが刑事起訴されたのはたったの5件。第1級強姦罪、第2級強姦罪、2件の略奪的性的暴行罪に第1級違法性行為だ。略奪的性的暴行罪には1件以上の告発者が必要で、有罪となれば「終身刑にもなりかねない重い罪」だと弁護士のドミトリ・シャクナヴィッチ氏は言う。ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイカレッジの法学・犯罪科学・刑事司法学部の非常勤講師でもある。

起訴内容は元番組製作アシスタントのミミ・ハーレイ氏と、2013年にワインスタイン被告から性的暴行を受けたという匿名の女性、2人の被害者に関するものだ。ハーレイ氏はワインスタイン被告がプロデューサーを務めるTVドラマのアシスタントとして勤務していたが、2016年にソーホーにある被告宅で被告からタンポンを抜き取られ、無理やりオーラルセックスを強要されたと主張。匿名の女性は2013年、ニューヨークシティのホテルの一室で被告から強姦されたと主張している。

ワインスタイン被告は公の場で頑なに無実を訴えており、今回の裁判でもすべての起訴内容で無罪を主張した。

・証人は?

ワインスタイン被告の起訴状に登場するハーレイ氏と匿名女性も当然証言するとみられているが、検察側はこの2名に加え、起訴状には記載されていない3人の告発者を新たに召喚するとみられている。彼女たちのように、被告人の過去の行為や「悪行」を語る証人はニューヨーク州の裁判所では“モリノー証人”と呼ばれる。「彼女たちは被害者の証言の正当性を証明することができる、最も重要な証人です」とシャクナヴィッチ氏も言う。

3人の追加証人の中でも特に有名なのが女優のアナベラ・シオラだ。『ザ・ソプラノズ』のグロリア・トリロ医師役として知られ、映画『ジャングル・フィーバー』や『奇蹟の輝き』にも出演した。彼女は1993年、自宅のアパートに無理やり押し入ったワインスタイン被告からレイプされたと主張している。25年以上も前の事件ではあるものの――ニューヨーク州のレイプ事件の時効は過ぎている――略奪的性的暴行罪を裏付ける検察側の証人として証言台に立つ予定だ。

検察側が異を唱えたにもかかわらず、被告側弁護団は2人の心理学者を証言台に立たせ、とりわけ「問題となっている性的状況における記憶の正確性と信頼性」に関し、虚偽の記憶という心理現象について証言させるつもりだ。「被告側が提出する証拠の中には、ハーレイ氏と匿名告発者の携帯メールおよびEメールが含まれていると思われます。襲撃の後も、2人がワインスタイン被告と会いたがっており、告発の動機に疑問が残ると主張するつもりでしょう」

これに対し検察側は被害者代表の証人を呼んで、暴行を受けた被害者がその後も加害者に連絡を取るのはごく当たり前なことだと証言させるだろう、とシャクナヴィッチ氏はみている。「ひどすぎますよ、他に状況を説明する方法がないなんて」と同氏。「女性たちにこんな思いをさせた上に、本人たちがレイプだと主張する事件後の精神状態を専門家に鑑定させるなんて。ひどすぎます」

Translated by Akiko Kato

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