Amazonは既に音楽ストリーミングビジネスの将来を見極めたのか?

Amazonのジェフ・ベゾス(Photo by John Locher/AP/Shutterstock)

現状のストリーミングサービスが成長を続けるためには、よりバリエーションに富み、より良く、より安価なサブスクリプション・オプションを提供しなければならない。既にそれらを実現しているAmazonの戦略とは?

Amazonが提供する音楽ストリーミングサービスには、さまざまなサブスクリプション・オプションが用意されている。他のストリーミングサービスも見習うべきモデルといえる。

2020年1月、北米のレコードレーベル各社の幹部は、自分たちの甘い見通しを大目に見てもらえるだろう。このところ、北米における音楽ストリーミングサービスの成長の鈍化が懸念され始めたところだった。もしもこの懸念が現実のものとなり、サービスの転換点が訪れた時、それは間違いなく市場の成熟を示す初期兆候といえる。さらに、商業的な減退の現れかもしれない。

それでも2019年は、音楽ストリーミング業界では好調が続いた。Alpha Data(BuzzAngle)による最新の年間レポートによると、2019年の北米における音楽ストリーミング再生回数は7059億回を記録し、前年を1713億回上回った。ちなみに2018年は前年比1577億回増だった。

しかしながら北米のレーベル幹部も、決して安心してはいられない。なぜなら海の向こうに位置するもうひとつの世界最大級の音楽市場である英国では、状況が全く異なるからだ。英エンターテインメント小売業協会(ERA)の速報データによると、2019年に英国内で音楽ストリーミングサービスに費やされた金額は、前年よりも減少したという。2019年、英国におけるサブスクリプションの総収入は前年比1億9090万ポンド(約273億6000万円)増で、その前年の2億1010万ポンド(約301億1000万円)増から下落している。

ERAのCEOキム・ベイリーは、同データについて「ストリーミングサービスの登録ユーザーが増加するにつれ、一定の成長率を維持するのは当然難しくなってくるものだ」と、冷静な見解を示している。

しかし、英国における音楽ストリーミングサービスが飽和状態に達しようとしているとする見方は正しくない。ERAのデータに基づいて単純計算すると、2019年の英国におけるストリーミングサービスのサブスクリプション総額は10億300万ポンド(約1437億5000万円)で、Spotifyの個人向けプランの年あたり約120ポンド、月額9.99ポンド(約1400円)をベースにすると、現時点でおおよそ840万人の英国民が有料の音楽ストリーミングサービスに登録している計算になる。人口全体(6700万人)の13%に満たない人数で、つまり英国民の8割以上は、Spotifyをはじめとする音楽ストリーミングサービスの有料利用者ではないのだ。

英国の音楽業界における緊急の課題は、やがて米国においても避けて通れない問題となる。つまり、Spotifyがサービスを開始してから11年が経った今なお音楽ストリーミングサービスにお金を使おうとしない大多数の人々を、どう惹きつけるかという課題だ。

2019年11月に公開されたERAによる別のレポートが、問題に対する答えを示している。ERAは、ホテル、ジム、テレコミュニケーション等の業界におけるサブスクリプション・モデルを専門とするコンサルタントのOC&Cに、英国の音楽ストリーミング市場の現状分析を委託した。OC&Cは、現状の月9.99ポンドのみのシンプルなプランにバリエーションを持たせることで、2023年までに年間5億ポンド(約716億6000万円)の収入増が見込める、と結論付けている。

さらにOC&Cは、英国における音楽ストリーミング・モデルが現行のまま変わらないと仮定した場合、2023年時点のサブスクリプション市場は年間11億ポンド(約1576億5100万円)規模に拡大すると試算している。ところが、現行の「スーパーユーザー」を対象としたサービスを拡張し、さらに非ユーザーが手を出しやすいサブスクリプション・パッケージを提供することで、16億ポンド(約2293億1000万円)にまで伸ばせると見ている。

現行の各音楽ストリーミング・プラットフォームは提供するコンテンツも価格設定もほとんど代わり映えしない、というのが現在の市場に対する一般的な見方だ。最近のサービスのほとんどは、Pandoraの前CEOティム・ウェスターグレンの言葉を借りれば、「5000万曲のセットメニューを用意して検索ボックスを設置し、あとは幸運を待つのみ」というサービスを月9.99ドルや9.99ポンドで提供している。また、InterscopeとApple Musicの共同創業者であるジミー・アイオヴィーンもニューヨーク・タイムズ紙の有名なインタヴューで同様の批判をしている。「音楽ストリーミングサービスはどれも同じ。それが問題だ。」

Translated by Smokva Tokyo

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