未解決事件から誤認逮捕まで、2010年代の「犯罪ドキュメンタリー」を象徴する5つの事件

その5
2018年:『I’ll Be Gone in the Dark』

故ミシェル・マクナマラ氏の2018年の著書『I’ll Be Gone in the Dark(原題)』は、犯罪ドキュメンタリーブームを次の段階に導いた。安楽椅子探偵が指揮を執り、ある程度まで迷宮入りしていた事件を解決するようになったのだ。

マクナマラ氏は、彼女がゴールデン・ステイト・キラーと呼ぶ暴力的な犯罪者の裁判にのめり込んでいた。この男は1974年から1986年にかけて、カリフォルニア州で少なくとも12件の殺人と50件の強姦、100件の強盗を働いたと見られていた。

マクナマラ氏は何年もかけてこの犯罪者について調べ上げ、いくつも記事を執筆し、そしてついに1冊の本を書き上げた。この本は数々の犯罪について徹底的に、それでいて不思議なほど美しく描写している。2016年、本の完成を前に彼女はこの世を去ると、アシスタントだった捜査報道ジャーナリストのビリー・ジェンセン氏と夫のパットン・オズワルト氏が本を上梓した。

本が出版されてからわずか数カ月後、一連の殺人事件の容疑者が逮捕された。カリフォルニア州出身の74歳の元警官、ジョセフ・ジェームズ・ディアンジェロだ(彼は無罪を主張している)。元刑事のポール・ホールズ氏は90年代以来ずっとゴールデン・ステイト・キラーの足取りを追ってきたが、科学捜査の新技術――すなわち、DNAデータベースからで殺人犯の近親者と思しき人々を検索し、系図学の技術を応用してDNAが一致しそうな人物を突き止める――のおかげで、警察と共に容疑者を捕らえることができた。

逮捕の後、ホールズ氏とジェンセン氏はタッグを組んで『The Murder Squad』というポッドキャストを立ち上げ、マクナマラ氏の遺志を引き継ぎ、鋭い視点を持ったリスナーの助けを借りながら未解決事件の解明に挑んでいる。「僕は一般市民が……過去の未解決殺人や暴力事件、行方不明者などの解明のお役に立てると心から信じています」と、ジェンセン氏は自著『Chase Darkness(原題)』の中で述べている。

他にも――1992年に学校教師を殺害したDJから、1988年に8歳女児を殺めた殺人犯に至るまで――DNAや系図学を犯罪捜査に応用して容疑者を特定し、有罪に持ち込んだ事件は多々ある(あまりに頻繁に使われるようになったので、司法省は警察の使用を制限する新たな規定を策定しなければならなかったほどだ)。

マクナマラ氏の『I’ll Be Gone in the Dark』の出版により、安楽椅子探偵が事件解決に一役買えることが示された。だが本の出版以降、何よりも大きな功績となったのは彼女の直感――インターネット上のDNAデータベースがときに迷宮入り事件の解決を可能にするという、彼女の直感かもしれない。


Translated by Akiko Kato

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