松田聖子や吉沢秋絵の曲を手がけた理由 プロデューサー/アレンジャーの瀬尾一三が語る

CHAGE and ASKA「ひとり咲き」に芝居的要素を入れたかった

田家:デビューシングルからやってらっしゃる。

瀬尾:そうですね、これは世界歌謡祭に出た時のものだと思います。歌謡祭とレコード用を同じくしたいと言われて、レコーディングを先にやってしまったんですけど。初めて彼らに会った時は素朴な2人で。ASKAがちょっと鼻が詰まった声で、それが魅力的だったんですけど。これは演歌っぽく、情念っぽくしたいなと思ってました。歌舞伎の舞台ではないけど、屋台崩しがあってそこから出てくるみたいなものをイメージして作ってみました。最後に半音上げてるのも、元々そんな曲じゃなかったんですけど。当人たちは何も知らなかったんでびっくりして目が点になってましたけどね。「あれー」みたいな(笑)。

田家:(笑)。でもアレンジによって曲のスケールが何倍にもなってましたね。

瀬尾:それは本当に屋台崩しがしたかったんですよ。舞台が上から崩れて、後ろから違うものが出てくるみたいな。それくらいの変化を音で作りたかったんですよ。

田家:あれ、1回目か2回目のツアーで屋台くずしやってませんでしたっけ?

瀬尾:それはちょっと行ったことないんですけど(笑)。

田家:それも瀬尾さんのアイデアなのかと思ってました。

瀬尾:いやいや、僕はそれでこの曲にちょっとこう、いわゆる芝居的要素を入れてみようと思ってアレンジしました。

田家:2作目の「万里の河」はフォーク演歌っぽくアレンジされてますけど、これはちょっと違いますもんね。

瀬尾:そうですね、これはある意味、世界歌謡祭っていう意識もあったので、他のエントリーの人より目立とうっていう僕のスケベ心があったんじゃないでしょうか。

田家:なるほどね、そういう意味ではある意味CHAGE and ASKAの生みの親と言っちゃっていいんでしょうね。

瀬尾:最初の頃はね。でもこのイメージを払拭するのに彼らは大変だったと思いますよ。「SAY YES」までいくのも大変だったと思います。

田家:なるほど。お聴きいただいたのは6曲目CHAGE and ASKAで「ひとり咲き」でした。続いては7曲目です。松田聖子さんで「花一色 ~野菊のささやき~」。

松田聖子「花一色 ~野菊のささやき~」


田家:作詞‎が松本隆で、作曲‎が財津和夫。これは6枚目のシングル「白いパラソル」のB面曲で、A・B面ともにこのコンビで書かれた曲であり、松本さんが初めて書いたシングル曲だった。で、東映映画『野菊の墓』の主題歌だったと。これはどういう経緯だったんですか?

瀬尾:これは財津さんの方からアレンジして欲しいと頼まれて。その時に甲斐祥弘さんに「赤い靴のバレリーナ」だったかな、それも頼まれて。だから、あともう一つ、杉真理さんからも『ピーチ・シャーベット』の3曲も頼まれてて。その時に録りました。

田家:瀬尾さんにとって、聖子さんはどういう風に映ってらっしゃったんですか?

瀬尾:ごめんなさいね、この頃のアイドルさんはね、スタジオに来ないんです。全部仮歌なんです。仮歌の女性がラララって歌いにくるだけだったので、申し訳ないんですけど松田聖子さんと仕事してるっていう認識がなかったんです。M1、M2みたいな感じで来るんですよ。

田家:あー、誰が歌うか分からない感じになってたんですね。去年の特集の時にですね、瀬尾さんはアイドルに対してどういうスタンスだったんですか? って伺った際に「シンガー・ソングライターだけやると決めた」と仰ってたんです。でも、なんでアイドルやらないのかって言えば、今仰ったようなことですよね。

瀬尾:そうですね、結局ご本人がオケ録りにいらっしゃらないので。僕にとってアイドルっていうのは顔のない誰かっていう感じなので、やってるうちに「この曲はどの人のために頑張るんだろう」っていうのが分からなくなってくる。やっぱりシンガー・ソングライターの方が直接話もできるし、意見も聞けるしっていうことで、アイドルから遠のいていくっていうことがありましたね。

田家:それはレコードが店頭に並んだり、テレビで歌ってる時のクレジットを見て「あ、これになったんだ」と気づくみたいな?

瀬尾:それもありますし、飲み屋で飲んでたら「あれ、どっかで聴いたこkとあるな。え、もしかして俺?」ということもありました。でも歌ってるのはこの人じゃなかった、仮歌の子だったようなって。松田聖子さんが悪いんじゃなくて、当時の音楽業界がそうだったってことなんですけどね。

田家:なるほど(笑)。7曲目、松田聖子さんで「花一色 ~野菊のささやき~」でした。続いて8曲目です。稲葉喜美子さんで「ゆりこ」。

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