tricotが結成10年目で到達した新たなる高み、その構築美に迫る

吉田雄介の正式加入がもたらしたもの

─今作の楽曲は、どのようなプロセスで作っていったのでしょうか。以前はキダさんが持ってきたギターリフをもとに、バンドでセッションした後イッキュウさんが歌詞とメロディを考えることが多かったそうですが。

キダ:今回はそれ以外にも、まずメロディからも作ってます。「あふれる」とかがそう。

吉田:「右脳左脳」はヒロミさんのベースから作ったよね?

ヒロミ:最初にベースフレーズがあって、そこにバンドの音を乗せていく感じで作りました。あとは大体いつも通りだったんですけど、今までみたいにインストでガッツリ完成させてからメロディを乗せるんじゃなくて、ワンコーラスくらい作った時点でボーカルを入れてもらって、そのまま進めることもあれば「これは一旦置いておこうか」と思ったら次の曲に取り掛かるなど、あまりセオリーにこだわらず作れたと思います。

中嶋:何ていうか、自分たちの曲を自分たちでコンペしているみたいな。ちょっとずつ作って置いておく余裕ができたのかもしれないですね。あと、例えば1曲目「混ぜるな危険」が1分半だったり、「低速道路」は2分ちょっとだったり、短くて中途半端な作りかけみたいな曲は、これまでのtricotにはなかったタイプです。次の曲のイントロっぽい曲は作ったことありましたけど、この2曲は初めての試みでした。

─「低速道路」は、曲調も今までにない感じだなと思いました。

中嶋:やっぱり一番大きかったのは、吉田さんが正式メンバーとして加入したことかな。それで音楽的に広がったというか。もちろん、他の3人が新たに仕入れたネタも反映されてますけど、リズムパターンに関しては吉田さんのおかげでバラエティに富んだものになりました。

─前作『3』も、2曲を除いて全て吉田さんが叩いていますが、正式メンバーとしてレコーディングに参加したのは今作からですよね。やっぱりサポートの時と意識の違いはありますか?

吉田:『3』の時ももちろん、自分の意思は投影されていますが、どちらかというと3人のやりたいことを「増幅」することに徹していました。が、今回はメンバーとしてレコーディングに臨んだので、今までよりも自分勝手に叩かせてもらってますね(笑)。テイストやジャンル感は、より自分の色を出しているつもりです。

中嶋:ゼロからイチの作業を一緒にやれている感じはありました。吉田さんのドラムが入っただけで、曲の印象がガラッと変わってまうくらい存在感があって。ドラムが要になっている曲もたくさん入っていますね。

キダ:曲作りで行き詰まった時とか、視野がどんどん狭くなっていってウウーってなって(笑)、それでも考え続けた先に次の展開が思いつく場合もあるんですけど、今作ではそこで吉田が「こういうパターンどう?」「こういうのは?」みたいに色んなリズムパターンを叩いてくれて。いい意味で客観的に引いた視点でのアイデアのおかげで、自分も色んなフレーズを試せた瞬間が結構ありました。自分では思いつかなかった道を提案してくれて、そっちに進むことで新たな展開が作れたりするのはありがたいですね。

─ちなみに吉田さんは、どんな音楽に影響を受けてきたのですか?

吉田:ロックやファンクのバンドで叩いていたこともあるんですけど、サルサのような中南米系の音楽をどっぷりやっていた時期があって。ワールドミュージックが好きなんですよね。インド音楽とかも聴きますし、アレンジに煮詰まった時など、そういうところの引き出しからアイデアを引っ張ってくることが多いです。逆に、ポストロックとかマスロックとかはそんなに通っていないので、いい意味でそっちに寄りすぎないかなと思っていますね(笑)。

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