昨年、avex/ cutting edge内に自身のレーベル「8902ECORDS」を設立したtricotが、結成10周年となる今年遂にメジャー1stアルバム『真っ黒』をリリースする。
タイトルもバンド名も表記されていない、文字通り「真っ黒」なジャケットが強烈なインパクトを放つ本作は、摩訶不思議なギター・オーケストレーションや複雑怪奇なリズム・セクションによる変態的なアンサンブルと、シュールでポップな歌詞の世界が絡み合う「これぞtricot!」と快哉を叫びたくなるような「あふれる」はもちろん、ヒップホップ〜ネオソウル的なグルーヴを取り込んだ「なか」や、シティポップ〜サイケの流れを組んだ「低速道路」など、彼らにとって新機軸ともいえる楽曲も散りばめられており、結成10年にしてなお進化し続ける姿にただただ圧倒される。おそらくそれは、前作『3』でも全面的にバックアップし、今作から正式メンバーとして加入したドラマー吉田雄介の貢献もかなり大きかったはずだ。
ポストロック〜マスロックを基調としながら、それにとらわれないサウンドスケープで他とは一線を画してきたtricot。その世界観はどのようにして生み出されてきたのだろうか。アルバムについてはもちろん、楽曲制作のプロセスや最近ハマっている音楽についてなど、メンバー全員からバンドの“現在”について語ってもらった。
─まず、『真っ黒』というアルバム・タイトルがインパクトありますよね。
中嶋イッキュウ(Vo, Gt):12曲目に入っている「真っ黒」から取ったんですけど、この曲がレコーディングの最後の方に出来た時、すごく印象が強くて。歌入れが終わり、アルバムのカタチが見えてきた段階で「この曲がリードでいいんじゃないか?」と満場一致で決まり、「曲名もいい感じやから、そのままアルバム・タイトルにしちゃおう」みたいな。アートワークとかMVを作る時も楽というか(笑)、アイデアがポンポン浮かんできそうな気がしたんですよね。
─確かに、アートワークも斬新です。タイトルが浮き上がっているとかでもなく本当に真っ黒なんですね、かなり攻めてる。
中嶋:タイトルが決まった時からジャケットは真っ黒にしたいなと。それがどのくらいカッコいいものになるかは、出来上がったものを見てみないと分からなかったので、それ以外のパターンも並行して作ってもらったのですが、やっぱり潔いのが一番カッコいいし、tricotらしいかなと思ってこれにしました。色んなところで「表示エラーなんじゃないか?」って言われてる気がしますね、avexさんすみません……という感じです(笑)。
─(笑)。アルバム制作中は、どんな音楽を聴いていました?
中嶋:去年はサバプロ(Survive Said The Prophet)をよく聴いていましたね。一昨年ライブに呼んでもらって、昨年は自分たちの9周年の企画ライブに出てもらったんですけど、今まであまり聴かなかった感じなのに、純粋に「かっこいいな」と思えたバンドはすごく久しぶりで。個人的にはSiMを初めてライブで観たとき以来の衝撃でした。あと、楽曲の面白さでいうとTempalayもお気に入りです。
キダ モティフォ(Gt):私は一昨年からずっと、ジ・インターネットにハマってました。昔からソウルやR&Bは好きだったんですけど、一つのバンドを掘り下げて聴くみたいなことはあまりしてなくて。でも彼らの曲は、初めて聴いた時から自分のルーツみたいな懐かしさがあって。すでに体が知っているみたいなすごく不思議な感覚があってメチャメチャ聴きましたね。ちなみに昨年、tricotのインディー時代最後の音源として出した「BUTTER」(『リピート』)は、もろ彼らの影響を受けています。
ヒロミ・ヒロヒロ(Ba):私はバンドものよりも、ステラ・ドネリーやペタルなど洋楽の女性シンガーをよく聴いていました。
吉田雄介(Dr):僕はジェイコブ・コリアー。一人でよくあんなに色んな楽器が弾けるよなって(笑)。昨年リリースされた『ジェシー Vol. 2』は色んなミュージシャンが参加しているのだけど、一人であれだけ出来る人が、人を入れるととんでもないことになるんだなと思い知らされました。
あとは、彼とコラボしたこともあるスナーキー・パピーもよく聴いています。人数が多いのにうるさくないところが好きですね(笑)。あと、ここにきて何故かレッド・ツェッペリンにもハマってました。