BiSHモモコグミカンパニー、いしわたり淳治に作詞とグループ論を学ぶ

集団でいる時と個人でいる時、自分らしいのはどっち?

ー集団でいる時と個人でいる時、どっちが自分らしいですか?

いしわたり:長くやってきた中で、それは差があるかも。集団でいることが楽しかった時期もある。20代の頃は、仲間が多いことがすごく楽しかったなと思います。だけど歳を取ってくると、全員が全員、同じではいられないというか。離れていく奴もいるし、遊んでいられなくなる奴もいる中で、自分一人で頑張るほうが新しいものを手にしたなって感じるのが30代って気がします。

ーSUPERCARの時は人に合わせることもありました?




いしわたり:けっこう特殊なメンバーだったので。仲良くしようという発想がみんなあまりなかったというか(笑)。不思議なグループで分業に近くて、曲を書く人が曲を書く、歌詞を書く人が歌詞を書く、ビジュアルを決める人がビジュアルを決める。

ー私、SUPERCARのライブに行ったことはないんですけど、そういう人たちが集まった時のライブってどんな感じなんですか?

いしわたり:MCがない(笑)。

ー(笑)。

いしわたり:淡々と進んでいく。やっている時は全然気づかなかったけど、解散ライブなのにMCがないとか。あの映像を見ていると、何のライブかよくわからない(笑)。事実上の最後のライブなのに。

―さっき「物語」の話が出ましたけど、青森で結成されたバンドがデモテープをレコード会社に送ったことがきっかけでメジャーデビュー……っていうSUPERCARのこのエピソードだけでも、すごくドラマチックですよね。

いしわたり:青森に住んでいる時のほうがあったかもしれないですね、そういうのは。田舎で育ったので、ソニーにデモテープを送ったら返事が来たとか、メジャーデビューできるとか、そういうのを喜んだのは覚えてます。「ソニーの人が来るらしいよ、寿司出前とっちゃう?」みたいなことになっていました。自分たちの作品が町のCD屋に新譜として並んで、試聴機に入っているのを見て、明日から時代が変わるって思ったのを覚えていますね。何も変わらなかったですけど(笑)。

ーBiSHの6人で踊ってる時、私だけサビのリズムがみんなと合わなくて。5人と比べて振りが速かったり遅かったりするんです。私の波長がみんなと合っていないのか、これで合ってる!と思っても周りを見たらズレてるし、自分もっと頑張れよって。

いしわたり:踊ってる時は気づかないの?

ー気づかないんです。言われたらわかる。でもリズム感は悪くないんです。1人でやる振り付けはけっこう上手にできる。BiSHは歌割りが救いだなと思っているところがあって。アイドルってみんなで歌うじゃないですか。BiSHはそれが全然ない。一人ひとり。それがすごくラクなんです。

いしわたり:同調しなくてもいいんだ。

ーBiSHはバラバラな個性がいいよねって言ってくださる方が多くて。すごく明るい子がいたり、私なんかは本が好きで内向的だったり。そういう人間が6人集まっていて。さっき「分業」とおっしゃっていたじゃないですか? ちょっと似ているのかも。

いしわたり:普段、みんなで遊ぶことはない?

ーないですね。メンバーと仲良くしたいと思っても、意識的にあまり踏み込まないようにしています。BiSHを辞めたら、この子ともっと仲良くしたいなと思ったり。

いしわたり:辞めたら仲良くなる予定があるんだね。なるほど。他の子たちは遊んだりしているの?



ー個人同士ではあると思います。

いしわたり:それも定かではない?

ー空気感でしかわからない(笑)。

いしわたり:確認したわけでも目撃したわけでもないと。

ーBiSHでいる間は、お客さんの知らないことを知りすぎたくないというか。

いしわたり:お客さんと同じ目線に立ち続けていたいってこと?

ーそうなんですよね。

いしわたり:複雑なプロ意識を感じます(笑)。事前にいただいた質問に「いいグループって何ですか?」っていうのがあったんですが、集団心理学だといいグループっていうのは心理学的にちゃんと説明されているらしいんですよ。カームタイプ=話のまとめ役、エキセントリックタイプ=自分の世界を守る人、ブラックリストタイプ=外部から新しい風を吹き込む壊し役、ディレクタータイプ=全体をうまくまとめて仕切る人、アベレージタイプ=みんなの平均値を愛する人。この5人がいるチームが、一番クリエイティヴィティが高いんだって。

ーブラックリストタイプもいたほうがいいんですね。

いしわたり:そうそう。風穴みたいなもので。同じチームだと息が詰まるでしょ。ドラクエだって遊び人みたいな人がいる。そんな風に、遊んでいる人が外から風を持ってくることがよくあって。「いつも仕事してないよな」って思われているけど、その“仕事してないよな”って愚痴が周りの団結力を生んでいるかもしれない。見えないところにいろんな役割がある。

ーみんなが仕事している間に何か頑張っているかもしれないですもんね。

いしわたり:あとは仕事していなくても、そこに属せるくらい愛されているとかね。魅力があることの裏返しでもあると思う。

ー私から見て、SUPERCARの頃のいしわたりさんって、淡々としていて冷静な感じが印象的で。バンドの中での立ち居振る舞いもそんな感じだったのかなって。

いしわたり:ギタリスト業務よりも、リーダー業のほうが多かったかもしれない。こだわりが強いメンバーだったので、スタッフと意見が擦り合わないことも多々あって。でも僕は限りなくスタッフ側で。ああいうバンドにいたのに、紅白に出たかったタイプだから。

ー出たいですよね。

いしわたり:出たい。だってそれ以上の親孝行はないもん。

ー本当にそう思います。時々、もし自分が脱退したらどうするんだろう?とよく考えるんですよ。脱退したらOLかなとか。ちょっと嫌なことがあったら、もう辞めてやるぞ!みたいな。

いしわたり:明日から何やろうみたいな?

ー過去に「BiSH辞めます」ってプロデューサーに本気で1回だけ言ったことがあって。自分でも何で言ったのかは詳細に覚えていないんですけど、たぶん本当に嫌になっちゃったんだと思う。でも、なぜかそれでも辞めなかったんですよね。

いしわたり:それは考えが変わったわけではなく? 説得されて?

ー引き止めてくれました。学生だったのもあるんですけど、今は普通の人生を歩むのか芸能界で生きていくのか、そういうことで悩むこともなくなったので、今できることをやろうと思って生きています。でも、一生は続かないわけじゃないですか。だからこそよく考えちゃうんですよね。

いしわたり:言われて確かに、バンドをやっている時にこれは一生続かないだろうなって頭の片隅にあったことを今思い出しました。その感覚って、みんな持っているものなのかもしれない。

ーそれが美しかったりとか。

いしわたり:それもあると思う。

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