ボン・イヴェール、来日直前に知っておきたい「2020年代のポップ・ミュージックの役割」

ボン・イヴェール(Courtesy of Live Nation Japan)

2020年代初頭におけるポップ・ミュージックの役割とは何だろうか。市井の人々の険しい日常をガス抜きさせ、安心や慰めをもたらすことを目的としたエンターテイメントとはまた別の、アートとしてのポップ・ミュージックの社会的な役割とは何だろうか。

おそらくそれは、同じ時代を生きる世界市民のひとりとして我々を取り巻く社会全体の歪みに批判的でありながら、同時に、市井の人々を鼓舞するものでなければならないだろう。だが、それはどんな形で、どんな風に、不特定多数のオーディエンスと共有されうるのか。そうしたポップ・ミュージックの役割にひたすら自覚的で、いまだ明確な確信とはほど遠いものの、自らの成すべきことにひたすら取り組んでいる作家がいる。ボン・イヴェールだ。

フォーク音楽の再定義でもあったUSインディという価値観を代表する存在であり、カニエ・ウェストとのコラボレーションが示すようにジャンルの垣根やアンダーグラウンドとメインストリームという垣根が取り払われた時代の象徴でもあり、グラミー・アーティストでもある2010年代を代表するインディ・バンド。彼らは、新たなディケイドの始まりである2020年に、アジア5か国を周るツアーを行い、2020年1月21日と22日には約4年ぶりの日本公演のためにこの島国にやってくる。

この記事では、アジア・ツアー直前に彼らから返答を得ることが出来たメール取材における発言を元に、ボン・イヴェールという作家の行動原理を通して、2020年代初頭におけるポップ・ミュージックの役割について探ることにしたい。

彼らが2010年代に産み落とした4枚のアルバムをバンドの中心人物であるジャスティン・ヴァーノンは4つの季節に喩えている。曰く、彼らの最新作『i,i』は「秋のアルバム」だという。では、その秋は、何が終わり、何が始まり、どんな変化が起りうる季節だったのだろうか。「僕にとっては、死が訪れるときに生まれる美しい色を指している。(秋という季節は)それまでの長く、力強い生から流れ落ちる血の時代の終わりなんだ」。これは彼自身の変化であると同時に、彼を取り巻く環境、強いては社会や時代の変遷についての(希望的な)コメンタリーでもあるだろう。



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