自作自演の少女誘拐事件から見えてくる人種の壁

通常の発令時との、明らかな対応の違い

1996年、自転車に乗っていたところを誘拐されて殺された当時9歳の少女、アンバー・ヘイガーマンちゃんにちなんで名づけられたアンバーアラートは、子供の失踪情報を一般公表するというシステムだ。アンバーアラートが発令されるのはそんなに頻繁にあることではないが、「誘拐事件は時間との戦いなので、可能な限り速やかに発動するようにしています」と、全米行方不明被搾取児童センター(NCMEC)行方不明児童部署のロバート・ロウリー次長は言う。

ロウリー次長によれば、一般的にアンバーアラートは「子供が誘拐された証拠があるか」「一般公表するのに十分な情報があるか」「子供に危険が迫っているか」が発令の判断基準となる。一見した限り、サンチェスさんの事件もこれらの基準を十分満たしている。「映像には2人の男性が彼女を車に押し込むのがはっきり見て取れますし、誰が見ても不安になります」と、彼はローリングストーン誌に語った。当局がアンバーアラート発令を決定すると、通常30分から1時間で、警察から各州の警報担当者に通知が届く――発令までに12時間かかったサンチェスさんのケースとは全く違う。

弊誌のコメント取材に対し、ニューヨーク市警はサンチェスさんのアンバーアラートをなかなか出さなかった理由は明らかにせず、「現在捜査が行われている」とだけ述べた。ロウリー次長も、警報遅延の理由はわからないとした上で、恐らくニューヨーク市警は捜査の初期段階で、一般には公開されていない情報を基に動いていたのだろう、と述べた。「警察は早い段階で、偽情報だと知っていたのだと思います」と彼は言うが、だとすると、なぜ警察はアンバーアラートを発令したのかという疑問が浮上する(ちなみに2018年のアンバーアラート発令データによると、子供の誘拐の自作自演は驚くほど少ない。その年のアンバーアラートのうち、デマであることが判明したのはたったの7%。その大半が、家族や近隣住民による通報だった)。

だが、たとえサンチェスさんの失踪にデマの疑いがあったとしても、ウィリアムズ氏の指摘――つまり、白人児童の失踪にかけられる労力と、有色人種の児童の失踪に対する労力との間に開きがある点は、やはり見逃すことはできない。2018年のデータによると黒人児童のアンバーアラートがどの人種よりも多く、(36%)、全米の行方不明の児童のうち有色人種は約60%を占めている。だがこうした数字にも関わらず、黒人児童が行方不明になった場合、白人児童のときよりもメディアでの報道が遥かに少ないことはどの調査を見ても明らかだ。こうした対応の差は、悲劇的な結果に繋がりかねない。ニューヨーク州刑事司法部の記録に基づいた2017年のとある研究によると、黒人の行方不明児童の方が白人児童よりも行方がわからなくなっている期間が長いことが判明した。研究は根拠として既存の調査結果を挙げ、「黒人やマイノリティの被害者の場合、あまり積極的に捜査されていないことがある程度裏付けられている」と指摘している。

ロウリー次長はNCMECでもこうした現状を十分認識していると述べ、最近ジャクソンビルで起きたブラクストンとブリア・ウィリアムズちゃん兄妹の失踪事件を例に挙げた。「白人の子供だったら全国放送で報じられていたでしょう」と、彼は悔しさを滲ませながら言った。「このような事件に(全国規模の)関心を向けることは難しいようです」(ウィリアムズ兄妹は森の中さまよっていたところを無事に保護され、今は2人共元気にしているそうだ) 彼が気がかりなのは、サンチェスさんのような狂言誘拐が、彼が言うところの「防犯アラーム効果」を生むのでは、という点だ。今後子供の行方不明の通報があっても、世間が無反応になるのではないかと懸念している。だが、同じくらい重要な問題――メディアがほとんど誰も積極的に取り上げない問題――は、一体何がサンチェスさんに誘拐の自作自演を決意させたのか、という点だ。

Translated by Akiko Kato

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