自作自演の少女誘拐事件から見えてくる人種の壁

米ニューヨーク州ブロンクス出身のキャロル・サンチェスさん(Photo by NYPD Crimestoppers)

昨年12月中旬、米ニューヨーク州ブロンクス出身の16歳キャロル・サンチェスさんの誘拐現場を捉えたと見られる画質の粗いモノクロ映像がTwitter上に出回った。

動画には2人の男性がサンチェスさんに掴みかかり、無理やり車に押し込んで、怯えた母親を残して逃走する様子が映し出されていた。当初は明らかに誘拐事件だと思われたが、わずか数時間のうちにそれよりずっと闇の深いものになっていった。その後、警察はサンチェスさんが無事保護され、誘拐は自作自演だったと自供したと発表。現時点では、動機が何だったのか明らかにされていない――厳格な母親から逃れるためだった、とも、家族と共に母国ホンジュラスへ引っ越すのを阻止するためだった、とも伝えられている。

事件の速報に対して世間はすぐに反応し、賛否両論真っ二つに分かれた。大勢の人々が、ただでさえ黒人少女や女性の行方不明事件は軽んじられがちなのに、サンチェスさんのせいで余計に警察から相手にされなくなる、と憤った。その一方、特に右派の人々は待ってましたとばかりに事件に食いつき、大勢の自称評論家がサンチェスさんと『Empire 成功の代償』の人気俳優ジャシー・スモレットの共通点を挙げ連ねた。だが、今回の事件を遥かに超えた大きな問題に目を向ける者はほとんどいなかった。そもそもなぜ警察は、アンバーアラート(全米行方不明者緊急警報)を発令するのにこれだけ時間がかかったのだろう?

サンチェスさん誘拐の第一報が報じられると、市内の黒人活動家の間から大きな反発の声が起こり、なぜ報道が遅れたのか釈明を求めた。ニューヨーク市公選弁護人のジュマーネ・ウィリアムズ氏は、サンチェスさんが有色人種の若い女性だったために警察は事件に関心を払わなかったと仄めかし、アンバーアラートが発令されるまでこれほど時間がかかった理由を求めた。「外見によって警察の対応が決まることがしょっちゅうだということは周知の事実です。こんなことはもうたくさんです」とウィリアムス氏。「誰もが子供の身を案じています。アンバーアラートに11~12時間もかかるなんてことがあってはなりません」

Translated by Akiko Kato

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