甘えでもわがままでも育て方のせいでもない 自閉スペクトラム症を理解する

自閉スペクトラム症は、「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたいという本能的指向が強い」ことを特徴とする、発達障害の一種で、次の2つの症候が組合わさって出現します。

・対人交流とコミュニケーションの質が異常であること
・著しく興味が限局すること、パターン的な行動があること

実生活の中で、1人でいることを好んだり、一方的な対人交流であったり、人情への配慮に疎かったり、会話が噛み合なかったりすることがあります。また、特定の物事に強い興味を抱いたり、特定の手順を繰返すことにこだわったりすることもあります。たとえばクレイグ・ニコルズは、毎日ハンバーガーを食べ続けていることが知られていましたが、それも、慣れ親しんだルーチンを好むというこの特性に関係していると考えられます。

そうしたこだわりの強さもあって、特定の領域に関する記憶力が優れていることがあり、それが武器になり得ることもありますが、一方でいったん記憶したことを忘れられないため、それが不快な経験や悲しい体験の場合、いつまでも強い心痛を感じてしまったり、細部の記憶のために物事の優先順位をうまく決められなかったりする場合があります。

こうした特徴以外に感覚の特異性がある場合があり、聴覚、視覚、味覚、嗅覚、触覚、痛覚、温冷の感覚など、すべての感覚で過度に鈍感であったり、反対に敏感であったりすることがあります。これも本人にとってはとても重大なことですので、周囲の配慮も必要となります。

これらは、生まれながらの特性であり、病気ではありません。親の育て方のせいでも当人のせいでもありません。例えば「左利き」は病気でしょうか? 親の育て方や当人のせいでしょうか? もちろん違います。しかし、日本ではつい最近まで左利きは「直す(治す)べき」対象だったのではないでしょうか? ある意味自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害にも同じことが言えます。そして発達障害の特性を持つ人は、左利きと同じく10人に1人程度の割合でいるとされています。

自閉スペクトラム症の特性によってとても生きづらくなってしまうと、それは「障害」になります。逆に、これらの特性を持っていても、生きづらくなければ障害にはなりません。そうするためには、当人も周囲の人も「できることはしっかりやっていき、個性を伸ばす」が「できないことは無理してやらない」ことを基本として、1人1人に適した環境を考えていきます。ちなみにクレイグ・ニコルズの場合は、変化する、異なる環境が彼にもたらすストレスを軽減するために、ツアーを短縮し、自宅にレコーディングスタジオを作りました。決まった環境で作業を繰返す自宅でのレコーディングは、彼の特性には合っていたようで、その後も時にトラブルは発生するものの、コンスタントに音楽活動を継続できているのです。

この連載は『世界の方が狂っている』というタイトルですが、一貫して「生きづらさ」が生じてしまう問題の多くは、その当事者ではなく環境の方に問題があるかもしれない、と考えてみることが大切である、ということを訴えてきました。今回も同じで、まず、いろんな特性を持った人がいるということを知ること、そして、ひとりひとり違う特性を持ったわたしたちが、その違いによって生きづらくなることのない社会や環境をつくる方法を考えていければと思います。

参照

■The Gardian『Stop Maiking Sense』Craig McLean Sunday 5 March 2006
http://www.theguardian.com/music/2006/mar/05/popandrock

■ Autism Key 『Craig Nicholls of The Vines Copes with Autism』
http://www.autismkey.com/craig-nicholls-of-the-vines-copes-with-autism/

■ BARKS『ザ・ヴァインズ、ステージで言い争いショウをキャンセル』 2004.6.1
http://www.barks.jp/news/?id=1000000543

■ contactmusic.com
『Numan Convinced He Has Asperger’s』By WENN on 25 February 2008
http://www.contactmusic.com/gary-numan/news/numan-convinced-he-has-aspergers_1060637

■ The Gardian『Gary Neuman : My family values』Angela Wintle Saturday 5 May 2012 00.05 BST
http://www.theguardian.com/lifeandstyle/2012/may/05/gary-numan-family-values-aspergers

■自閉症スペクトラムとはー特徴と症状、どんな人があてはまるのか?発達や大人になってからの不安について(Medical Note)
https://medicalnote.jp/contents/150530-000017-MFVVZG

■『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き』(医学書院)


<書籍情報>




手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/




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