江沼郁弥が語る、ソロになって1年で得た逞しさと弱さへの対峙

・歌詞にいちばん時間がかかるし、いちばんやりたくないし、いちばん警戒する。でも、いちばん大事なものです。

—どこまでも人間の存在に触れようとするところが、江沼さんの音楽にはありますよね。その感覚って、ある種の「人間愛」みたいな言い方はできると思います?

江沼:どうだろう……これが「人間愛」なのかどうかは、よくわからないです。ただ、表現とかアートって、掘り下げていくと実存主義的なところに行きつくとは思います。みんながみんなそうかはわからないけど、僕はどうしても「僕らは、どこから来て、どこへ行くのか」っていうことになっていく気がする。その過程で、神が出てきたり、祈りが出てきたり、「踊る」という行動が出てきたり、いろんなもの経ながら「人間」を掘り下げていくのが、僕がモノ作りを好きな理由です。

—音楽で人の芯の部分に近づいていくというか。

江沼:うん、究極な話、自分の存在を突き詰めていくことは、その奥にある「なんのために、宇宙が生まれたんだろう?」みたいな話にも繫がっていくと思う。僕は科学者じゃないから計算や実験でそれを解き明かすことはできないけど、音楽家として、それを解き明かしたい。そういう気持ちはずっとあります。だから曲を作っていて、人の姿、本質みたいなものが見えてくると、「あ、見えてきた」って思うんです。でも、それが見えないところにいると、「まだだな、まだ浅いな」って思う。

—うん、うん。実存主義みたいな話でいうと、僕は最近サルトルを読もうと思って。『嘔吐』とか。

江沼:あ、ほんとですか。サルトル、面白いですよね。

—サルトルの場合は文学、言葉ですけど、歌という表現を通して人間の実存に迫ることにもまた、難しさはありそうですよね。

江沼:そうなんですよね。「自分の存在はなんだろう?」みたいなことを突き詰めようとすると、音楽の中に歌詞はいらないんですよね。でも、「それじゃあ、人に届かないじゃん」っていうことになってくるから、言語化していく。ただ、「言語って邪魔くさいんだよなぁ」ってずっと思って……(笑)。でも、邪魔な存在だからこそ、ちゃんと向き合わないと……言葉から逃げたらヤバいなって思います。だからいまだに、歌詞にいちばん時間がかかるし、いちばんやりたくないし、いちばん警戒するし。でも、いちばん大事なものです。

・「弱さ」って、「強さ」よりもみんなと共通しているものだと思う。だからこそ、そこから目を背けるとヤバい。

—今日話して下さった、自分だけの内側にある静けさを大事にしたいっていう感覚と、その静けさをもって、すごく深いところで、他の誰かとコミュニケーションを取ることができるんじゃないか? って信じている感覚と。それを繋ぐためにも、言葉はやっぱり重要になってきますよね。

江沼:そう、自分勝手にやってはいるんですけど、自分の奥深くに辿り着けば、そこにみんないるんじゃないかな? っていう。それこそ、木のナイーブが、僕の歌詞を読んで「俺もこれ思ってたんだよ!」とか言うんですよね。「嘘でしょ?」って思うんだけど(笑)……でもまぁ、きっと本当なんだろうなと思って。奥底にある言葉、概念というか捉え方みたいなものは、きっとみんな共通しているんじゃないかなって思うから、なるべくそこに近づいて、言葉にして並べたいです。

—今回のアルバムの歌詞の中に、「弱い」という言葉がよく出てくるなと思ったんです。江沼さんの中で「弱さ」とはどういうふうに捉えられるもので、それは、さっき言っていた「逞しさ」と、どう関係しているものですか?

江沼:「弱い」は、「逞しさ」と対のものだし、意味は違うけど同じっていう感じがあって。弱いから逞しい、みたいな。自分を見つめることって、絶対に弱い部分にぶつかるから、それを理解して抱えていくのもひとつの答えだと思うし、それをぶっ壊すのもひとつの答えだと思う。「弱さ」を持っていない人はいないと思うんですよ。そういう意味で、「弱さ」って、「強さ」よりもみんなと共通しているものだと思う。だからこそ、そこから目を背けるとヤバいよ? って思っています。

—もう時間なので、今日の取材はこれくらいにしましょう。めちゃくちゃ面白かったです。

江沼:大丈夫ですか? 足ぐねってる感じになってません?(笑)

—足ぐねっていても、それはそれでいいじゃないですか(笑)。

江沼:ははは(笑)。まぁ、そうですね。

Edited by Aiko Iijima


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