ニール・パートの超絶ドラミングと世界観を味わうラッシュの12曲

「YYZ」が生まれたのは飛行機でトロントに着陸していたとき

YYZ」(1981年『ムービング・ピクチャーズ』収録)


Fin Costello/Redferns/Getty Images

トロントの空港名コードが(実際の都市名にはYもZも入っていないが)、『ムービング・ピクチャーズ』収録の陽気で型破りなインスト曲のタイトルとなった。レコード収録時の長さは4分半だが、ツアーで演奏する場合には2倍の尺に伸ばされていて、中間にパートが向こう見ずなドラム・ソロをインサートするのが恒例となっていた(ライブ・アルバム『ラッシュ・ライヴ〜新約・神話大全』で確認できる)。この曲は時を経てもコンサートの定番として演奏し続けられ、メンバー3人全員がそれぞれのテクニックを思う存分披露するのに最適の楽曲だった。2012年にパートは、「この曲が生まれたのは飛行機でトロントに着陸していたときで、コックピットからモールス信号のリズムが聞こえてきたんだ。3人ともそれが曲のイントロにぴったりだと思った。そこで、これを使う曲は空港に関する映画的な楽曲にしようと決めて、人々が再会する様子を表す巨大なクレッシェンドの周りにエキゾチックな空気感を漂わせたわけだ」と語っていた。

「サブディヴィジョンズ(原題:Subdivisions)」(1982年『シグナルズ』収録)


Fin Costello/Redferns/Getty Images

『ムービング・ピクチャーズ』でサウンドを見事に整理したラッシュが次に放った意欲作が『シグナルズ』で、彼らはこの作品で80年代特有のラジオ・フレンドリーなサウンド世界へともう一歩深く足を踏み入れた。リーがシンセで奏でる4分の7拍子の脈を刻むようなリフが牽引するリード・トラック「サブディヴィジョンズ」は、ラッシュがプログレ界のレジェンドになった最大の要因である多様なニュアンスを一つも犠牲にすることなく、ポップ・フォーマットで楽曲を操れるバンドの実力とパートの実力の両方を明らかにした。また、この曲の歌詞はそれまでパートが書いた中で最も心を打つものだろう。郊外暮らし独特の疎外感を示す出来事と、思春期にありがちな「人と同じじゃなきゃ追放される」という自縛プレッシャーを表した歌詞は、典型的なラッシュ・ファンの中でも、世間に対して声にならない不快感を覚えているファンの共感を得たようで、この曲を聞いた彼らは今後クールな連中に迎合しない勇気を得た。2017年にこの曲が自身の思春期の体験かと聞かれたパートは「まさしくそうだ! 大人への階段を登っている最中は、自分が高校でどう見られているかってことが重要なんだよ」と答えた。

「内なる敵へ(原題:The Enemy Within)」(1984年『グレース・アンダー・プレッシャー』収録)




Fin Costello/Redferns/Getty Images

彼らの10枚目のアルバムとなった『グレース・アンダー・プレッシャー』で、ラッシュはニュー・ウェイヴ時代であっても力強く生き残る生命力を証明した。これまでより尺が短く、構成がシンプルな楽曲で、耳あたりの良いプロダクションにしつつも、匠のプログレ要素はしっかりと維持していたのである。ここでも相変わらずパートのパーカッションがラッシュの進化に不可欠な存在だった。彼が70年代後半に使用していたティンパニーとテンプルブロックがセットの後方に移動し、パートはこれまで以上に経済的な動きで正確なプレイを行えるセットアップへと進化させた。そして、この曲「内なる敵へ」はバージョンアップした“ニール・パートver 2.0”を100%堪能できる楽曲となっている。Bメロ部分の踊るハイハットがゲディ・リーのファンキーなベースとアレックス・ライフソンのスカ風ギター・フィルの間を埋める。恐怖がテーマの三部作のパート1なのだが、時系列としては最後に登場するこの曲には、ポリスのスチュワート・コープランドの影響が色濃く現れている。この時期のインタビューでパートは頻繁にコープランドに言及しており、1980年のモダン・ドラマー誌では、「ポリスというバンドがいて、そこのドラマーはシンプルでありながら非常に趣のあるプレイをする。最高だよ。彼のアプローチは新鮮だ」と述べている。

Translated by Miki Nakayama

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