JAGATARAと江戸アケミの音楽は、30年後の腐敗しきった日本でどのように響くのか?

「つながった世界」の喧噪の後、『それから』の後半は急に鎮静する。アルバム全体にある種の文学性が香るのも、そんな構成ゆえかもしれない。風刺的なストーリーテリング、その中に織り込まれた自省や自嘲。JAGATARAのバンドとしての成功に対するそれも、アルバムには投影されていたはずだ。弾き語りフォーク的な「中産階級ハーレム」はビッグ・バンドのフロントに立つことの違和感と隣り合わせの表現だったのではないだろうか。Jagatara2020の『虹色のファンファーレ』に収録予定のライブ音源「へいせいナンのこっちゃい音頭」も、同時期の江戸アケミの壮絶な弾き語りだ。そこでは彼は「またふりだしに戻ってやりなおし」と歌っている。

1989年暮れのBMGからの二作目『ごくつぶし』がスタジオ・ライブの一発録音となったのも、プログラミングやオーバーダビングを重ねて練り上げられた『それから』への反動という側面があっただろう。『ごくつぶし』はJAGATARAのアルバムの中でも最も話題になることが少ない一枚に思われる。だが、23分以上に及ぶ「SUPER STAR?」は、伝説化されたJAGATARA像の外にある異色作として、今こそ聴かれるべき1曲かもしれない。



アフロ・ビートを基調にしつつも、この曲は流転に流転を続ける。オルケスタ・デ・ラ・ルスでも活躍していた村田陽一のホーン・アレンジも秀逸だ。江戸アケミのストーリーテリングとホーン・セクションが会話するかのような進行は、ルベーン・ブラデスとウィリー・コローンのコラボレーションを彷彿とさせたりもする。トリックスター的なジョニーの物語は江戸アケミ自身の姿も戯画化しつつ、エンディングではやはりエコロジーを湛えたフェアリー・テールと化していく。

『ごくつぶし』のミックスはニューヨークで行われ、僕はOTOとともに、そのスタジオにいた。だが、当時はこの曲をパーツ、パーツでは聴けていても、全体像はとても掴み切れていなかったように思う。

もっとも、当時のJAGATARAを俯瞰的に見て、全体像を把握することができていた人間がいたかといえば、誰もいなかったのではないだろうか。メンバーですら、何が起こっているのか分かっていなかったのが、JAGATARAだったかもしれない。分からないことにこそ、それぞれが集まってきた理由があり、あんな音楽が成立し、機能していたマジックもあった。JAGATARAというのは、そんなバンドだったと思う。

だが、それでいて、すべては「つながった世界」の出来事だった。そこにあった非組織的な繋がりは、もちろん、いまここ、にも繫がっているし、あるいは、あっちの世界にも繫がってる。たくさんの顔を思い出しながら、僕は本稿を書き起こすことになった。そして、もう一度、この言葉に戻ることになる。

「そうさ、もうすでに始まっているのさ」

いまここへの道は30年前には始まっていた。崖へと向かう、破滅的な行進を私達はやめることができるだろうか。



JAGATARA、旧BMGビクター音源のサブスク配信が解禁
暗黒大陸じゃがたら『南蛮渡来』
JAGATARA『裸の王様』
JAGATARA『ロビンソンの庭』
JAGATARA『ニセ予言者ども』
JAGATARA『それから』
JAGATARA『ごくつぶし』
JAGATARA『そらそれ』
JAGATARA『おあそび』
JAGATARA『BEST OF JAGATARA~西暦2000年分の反省~』
JAGATARA『家族百景』

※配信/購入はこちら
https://smdr.lnk.to/lnzg5

『南蛮渡来』『裸の王様』
アナログLP再発
発売日:2020年1月22日(水)
詳細:
http://www.110107.com/s/oto/page/jagatara?ima=4832


Jagatara2020

『虹色のファンファーレ』
Pヴァイン
価格:¥2,000+税
発売日:2020年1月29日(水)

収録曲
1. みんなたちのファンファーレ(新曲)
2. れいわナンのこっちゃい音頭(新曲)
3. LOVE RAP(1988年/未発表ライヴ録音)
4. プッシー・ドクター(1989年/未発表ライヴ録音)
5. へいせいナンのこっちゃい音頭(1989年/ライヴ録音)
6. みんなたちのファンファーレ(インスト)
7. れいわナンのこっちゃい音頭(インスト)

Jagatara2020「虹色のファンファーレ」
公演日:2020年1月27日(月)
会場:渋谷 CLUB QUATTRO
時間:18:00開場 / 19:00開演
※SOLD OUT

出演:Jagatara2020
Oto(G) / EBBY(G)/ 中村ていゆう(Dr) / 南流石(うた) / ヤヒロトモヒロ(Per) / エマーソン北村(Key) / 吉田哲治(Tp) / 村田陽一(Tb) / 宮田岳(B) / 関根真理(Per) / ko2rock(Sax) / 西内徹(Sax) / 桜井芳樹(G)

ゲスト・アーティスト
鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS) / 近田春夫(活躍中、LUNA SUN) / こだま和文 / 田口トモロヲ / 不破大輔(渋さ知らズ) / いとうせいこう / 町田康 / Nobutaka Kuwabara(DEEPCOUNT) / 高田エージ(SUPER BAD) / 吹越満 / 大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮、オケミス) / 向井秀徳 / 永山愛樹(TURTLE ISLAND、ALKDO) / 七尾旅人 / 折坂悠太


Jagatara2020「Jagatara2020ナンのこっちゃい生サロン」
開催日:2020年1月28日(火)
会場:渋谷 LOFT9 Shibuya
時間:18:00開場 / 19:00開演 ※物販の販売は17:00より
料金:前売4,000円 / 当日4,500円(ともにドリンク代別)

Jagatara2020公式サイト:
https://www.jagatara2020.com/


別冊ele-king じゃがたら ──おまえはおまえの踊りをおどれ
価格:¥2,000+税
発売日:2020年1月29日(水)
●江戸アケミ、地引雄一によるインタヴュー2本(うち1本は未発表)+荏開津広によるインタヴュー1本
●南流石、OTO、EBBY、中村テイユウ、大平ソーリ、八木康夫、こだま和文らの最新インタヴュー
●松原研二による未発表写真
●加藤典洋による「じゃがたら論」(再録)
論考:磯部涼、荏開津広、栗原康、こだまたけひろ、志田歩、陣野俊史、高島鈴、高橋慎一、野田努、二木信、平井玄、古川日出男、松村正人ほか
http://www.ele-king.net/

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