ヴィジュアルアートと電子音楽の芸術フェス「MUTEK.JP」レポート

30分の幕間を置いて、ステージ上に純白の衣装を纏い、ショーケースの女性のマネキンのようなポーズを取った、演出振付家MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」が現れ、ダンスパフォーマンス作品『discrete figures』が始まった。テクノサウンドに合わせた無機質なダンスが披露される。身体の動きに合わせて、ダンサーの前のガラスに光のレーザーが現れ、ダンサーの動きとリアルタイムでドッキングして光線も動いていく。実際のステージ上での演出に、リアルタイムでデジタルの世界が投影されていく。ステージに登場したカメラマンが、リアルタイムで撮影したステージの映像に、さらにARを落とし込んだ映像がスクリーンに現れた。実際のステージ上では5人が踊っているだけなのに、スクリーンでは、ダンサーの動きに合わせて光線が動く加工を施したARと一体化したVJが映っており、舞台装置として持ち込まれたガラスとダンサーしかいないステージが一気に近未来な世界へと描かれていく。


ダンスパフォーマンス作品『discrete figures』のワンシーン

先端的な演出技術と身体表現の融合の結晶は、新時代の優美を感じさせられるものだった。ステージではダンサーのソロダンスがパフォーマンスされているのに、ARを通したスクリーン上では、人を形どった光線とダンサーの掛け合いが映し出されていた。最新の機械学習の研究成果をダンスに取り込み、これまでにない知的な振り付けによる身体表現を可能にしていた。また、ただテクノサウンドに合わせて、技術とダンスの表現を合わせた近未来的な表現だけではなく、ポスト・クラシカルな楽曲では、ダンサーのジャズダンスに合わせて、人を模った光線が、まるで人間のような滑らかな動きも見せる。ステージの床や空間にも煌く星や、床の様子も変わって移り、別空間のように綺麗な世界観を作り上げた。ARにより、リアルタイムで投影されたマネキンの無機質な動きと、リアルで舞台上で踊るダンサーのジャズダンスの柔らかな動きの対比も魅力的であり、それがやがて溶け合うように同じ動きになっていくのも面白い。まさに5G がもたらす時代の変化、現実とデジタルの融合を体現したステージだった。カーテンコールでの拍手と歓声が鳴り止まず、ステージ上のダンサーだけではなくカメラマンやスタッフが勢揃いして挨拶。まさに新しい時代を作り上げ、新しい技術を操るのは彼ら人間同士であることを痛感した。


Rolling Stone Japan 編集部

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