J-POPの歴史「1986年と1987年、新しい扉が開いたロック元年」

甲斐バンド、解散コンサートの裏側

「ラブ・マイナス・ゼロ」は、85年に出たオリジナルアルバム『ラブ・マイナス・ゼロ』のタイトル曲ですね。ニューヨーク三部作と言われた3作目です。この3枚の中では1番洗練されているいいアルバムでしたね。「ラブ・マイナス・ゼロ」という言葉は、ボブ・ディランの曲のタイトルにもありますけど、当時のメディアは、自分も含めて、そういう音楽的な評価がちゃんと出来ていなかったとちょっと胸が痛いところもあります。甲斐バンドというと、いまだに「HERO」と言われるものに、甲斐さんは忸怩たるものがあるだろうなと思いながら見ております。

86年3月に最後のアルバム『REPEAT & FADE』が出たんですね。これは2枚組で、メンバー4人がそれぞれ片面ずつをプロデュースするっていう、本当にこれからそれぞれ別の道をゆくことを表したいいアルバムでしたね。で、86年6月23日から武道館5日間解散コンサート『PARTY』をやりました。解散コンサートなんだけどパーティっていう、彼のスタイリッシュな、ちょっと気取ったというんでしょうか、お涙頂戴にならない一つのお手本になったような解散コンサートでしたね。この3日後に黒澤明さんのプライベートスタジオ、黒澤フィルムスタジオでオールスタンディングのシークレットギグというのを行なったんです。これもお客さんに正装で来てくれっていうライブだったんですよ。スタイリッシュでしたね。ゲストに中島みゆきさんと吉川晃司さんが出ました。みゆきさんと甲斐さんが「港から来た女」という曲を一緒にやりました。

甲斐バンドの解散がありました。そして、シークレットギグが終わりました。その2日後が、初めてのBOØWYの武道館だったんですよ。86年は3月に『JUST A HERO』が出て、11月にミリオンセラーアルバム『BEAT EMOTION』が出る。甲斐バンドからBOØWYに流れていった。時代の変わり目に立ち会ったという感覚がすごくありました。甲斐バンドはどこか60年代70年代のウェストコーストだとか、イギリスのロックバンドのビートに影響されているんですけど、BOØWYはそういう感じが一切なかった。ポストパンクになった、ニューウェイブになった、うわー時代が変わった、ビートが変わったというふうに思いました。

今月ずっとそうなんですが、とてもプライベートな80年代なので、登場している人たちがあまり代わり映えしないというと変なんですけど、テレビでいっぱい歌っていた人とか、誰もが知っているヒット曲とは違うひとつの流れになっているのですが、それはご了承ください。ということで86年夏といえば、このアルバムなんです。1986年9月に発売になりました。浜田省吾さん『J.BOY』から「八月の歌」。

さっきNYの話をしましたけど、『J.BOY』のレコーディングは日本で行われて、ミックスダウンはロサンゼルスで行われました。エンジニアがグレッグ・ラダニーさんという、ジャクソン・ブラウンをずっとやっていた人なんです。アルバムは2枚組で、C面に彼のデビュー曲の「路地裏の少年」を軸に70年代の青春をそこに織り込んだ。「路地裏の少年」は、ライブではもっと長いサイズで歌っていたんですね。それをフルコーラスで、まんま入れたんです。そこに未発表だった「遠くへ - 1973年・春・20才」という当時の大学のキャンパスの様子を歌った歌を交えました。でも、1曲目が「A NEW STYLE WAR」。新しい戦争です。今の時代の歌。1986年の時代をに踏まえながら自分たちが過ごしてきた青春を改めてそこに織り込んだアルバムになっています。で、このアルバムが初めて1位になり、5週間1位を記録しました。

浜田さんは広島出身です。被爆二世です。8月になると広島はいろいろな語られ方をしている。常に被害者と書かれることに対しての、広島の人のいろいろな想いがある。日本は戦争の加害者でもあったわけで、広島を被害者という扱いだけでいいのか、そんなことをこの歌の中にも込めているんですね。ロックで戦争を扱っている。80年代に入ってから、そういうメッセージソングが歌われるようになった。この「八月の歌」は、戦争っていうのは加害者と被害者常に両方いて、誰にもどちらの面もあるんだということを歌っている。そういう意味では、とっても画期的な歌だなと思った記憶があります。

また、グレッグ・ラダニーという人はジャクソン・ブラウンをやっていたので、「路地裏の少年」のロングバージョンが流れたときに、ジャクソンの「Lawyers in Love」みたいだなと言ったんです。「Lawyers in Love」っていうのは、ジャクソン・ブラウンの当時の比較的新しい曲だったんですけど、僕らは「路地裏の少年」のほうが先なんだけどな、とはっきり思っておりました(笑)。

中村あゆみ / ONE HEART


RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE