ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・ムービー」トップ10

ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・ムービー」トップ10

マーティン・スコセッシの最新傑作から、世界を震撼させた道化師がスーパーヴィランへと変わるオリジン・ストーリーまで、ローリングストーン誌の映画評論家、ピーター・トラヴァーズが今年の映画10本について語った。

2019年は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』や『キャプテン・マーベル』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』といった興行的に大成功を収めた超大作のおかげでマーベルは大儲けをしたが、マーティン・スコセッシ監督からそういった作品は「本物の映画」としての妥当性を否定され、見下された。それにしても、今年の優れた映画は、映画にできることを生き生きと瑞々しく定義し、クリエイティブなエネルギーを解き放っている。スコセッシ(『アイリッシュマン』)のような高齢の巨匠から、サフディ兄弟(『アンカット・ダイヤモンド』)のような若き熱血漢まで、今年はかなり活気にあふれていた。Netflixは昨年の『ローマ』での成功に続き、さらに2作品(『アイリッシュマン』と『マリッジ・ストーリー』)で芸術的な成功を収めた。2人の素晴らしい女性監督のグレタ・ガーウィグ(『Little Women(原題)/ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』)とルル・ワン(『フェアウェル』)は、映画業界のOBクラブに警告を送った。クエンティン・タランティーノは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でハリウッド自身に挑戦し、韓国のエネルギッシュなポン・ジュノは、傑作『パラサイト 半地下の家族』で才能には国境がないことを気づかせてくれた。そして、『ジョーカー』と呼ばれる小さな映画もあった。以下に、映画が面目躍如した10作品を紹介しよう。

1.『アイリッシュマン』

Netflix

77歳のマーティン・スコセッシは、今でもアメリカの偉大なる生きたフィルムメーカーであるが、マーベル映画は映画ではないと発言したことで、今年の1年を揺るがした。「あの映画にないものは、新たな気づきや、神秘性、もしくは純粋な感情がもつ危うさなんだ」と主張したスコセッシは、そういったことにはとどまらない要素が散りばめられた映画を今年発表。その映画は2019年の最高作であるだけでなく、歴史に残るキャリアを総括し、煽情的で忘れられない作品だ。本作で、スコセッシは『カジノ』以来25年ぶりに、演技の比類なき神であるロバート・デ・ニーロやジョー・ペシと再びタッグを組んでいる。また、デ・ニーロ演じる殺し屋のフランク・シーランが殺すよう命じられるチームスターのリーダーのジミー・ホッファを演じるのは、精力的なアル・パチーノだ。若返りさせることが可能なデジタル技術によって、この役者たちは若い時代を自ら演じることができ、映画はアメリカの歴史を数十年にわたって描いている。ちなみに、彼らを倒すのは暴力ではなく、体を衰弱させながら重ねていく老いだ。勧善懲悪の印象を力強く残したことで、スコセッシは『グッドフェローズ』から『ディパーテッド』までの自らのギャング映画の中で『アイリッシュマン』をユニークなものにし、本作は傑作として評価を得た。



2.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

Andrew Cooper/Sony Pictures

クエンティン・タランティーノのハリウッドの末端に対する熱狂的な愛情は、非常に緻密で美しく語られる物語を映し出すフレームすべてに浸透している。時は1969年。光り輝くハリウッドに不吉なことが忍び寄っている。残忍なマンソン・ファミリーが物語の背景で忍び寄りながらも、バディーもののコメディを作ろうとするのは、タランティーノぐらいしかいない。レオナルド・ディカプリオの演じる男はうまく立ち回っているが、酒に浸り、落ち目のスターとしてテレビの悪役を演じ、自分のスタントを演じる相棒(この役で初のオスカーを狙うブラッド・ピット)からのサポートにかなり頼っている。そして、そう、隣に住んでいるのはマーゴット・ロビーが演じる無邪気さの象徴である女優のシャロン・テートだ。『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーを殺したタランティーノは、今回もご多分に漏れず、自分の倫理観に合わせるために歴史を改変した。最後に、映画の中のセリフを言いかえさせてもらおう。「あいつがクエンティン・タランティーノ様だ! 忘れるなよ」。



Translated by Koh Riverfield

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