ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ホラー映画」トップ10

8位 『Knife + Heart(原題)』

Memento Films Distribution

70年代後半、パリにあるヴァネッサ・パラディス演じるプロデューサーのゲイ専門AV制作会社で俳優を手際よく殺していく、黒い革のボンデージマスクを被った男は誰なのか? そして、彼女がその繰り返される殺人に基づいて作った最高傑作の映画は、その男をさらなる殺人の悪行へと駆り立てていくことになるのか? 監督兼共同脚本家のヤン・ゴンザレスによる過去を回帰する本作は昔ながらのスラッシャー映画と過去のいかがわしさに対するオマージュであり、アル・パチーノ主演映画『クルージング』を意識したり、鋭いディルドをクリエイティブに使ってみせたりしている。また、作品の印象としてスタイリッシュな残虐性があることを誇りの証とし、クィアのアンダーグラウンド・カルチャーと過ぎ去ったクィア芸術の時代への愛情にあふれている。事態がシュールなものに変わり始めたときでさえ、この驚くほどに猥褻なホラー映画には無駄がなく、意地悪で、君も知っていることのように切りつけてくる。

7位 『The Lighthouse(原題)』

Eric Chakeen/A24 Pictures

ロバート・エガース監督による『ウィッチ』に続く本作は、過去を掘り下げて人間の内面に迫る恐怖を引き出す監督の傾向が見られ、2人だけの灯台守――熟練した海の男(ウィレム・デフォー、彼は最高な役者だ)と若き見習い(ロバート・パティソン)――が徐々に精神的に参っていき、2人揃って狂気に陥ってしまう姿を追っていく。2人とも、沈黙で何かを物語るべき時や、陳腐なまでの状況にするべき時を理解している。デフォーが酔っ払って、八つ当たり的に相棒にトリトンの呪いがかかるように要求する場面は、2019年における映画製作において最も狂乱的な3分間かもしれない。従来的なホラーの方を好む観客の気持ちを満たすために、エガースは、怪奇小説や幻想小説の第一人者であるラブクラフトから影響を受けたり、獰猛な人魚などを入れ込んだり、ヒッチコック監督の『鳥』を意識した作りにしたりしている。君はこの作品に度肝を抜かれることだろう。

6位 『CLIMAX クライマックス』

Courtesy A24

喪失感に踏み込んだことは忘れて、地獄を楽しんでほしい。ギャスパー・ノエ監督による地獄のダンスパーティーは無邪気に始まり、ソフィア・ブテラやアンダーグラウンドのミュージックシーンで現実に先端をいく者たちがヴォーグやクランプのダンスをしまくる。だが、すぐに、サングリアのボウルに誰かが強力な幻覚剤をこっそりと混ぜたことが明らかになり……。叫び声があがり始め、さらに、誇大妄想や悪行、暴行、極端な自傷行為も始まっていく。後半は、あるダンスの一団が薬物を摂取後に道を踏みはずした現実の事件をベースにした大混乱を描写していくことに移る。ノエは、その物語に関するドキュメンタリーを作る準備を進めていたが、方向転換して、薬を使わずに最悪なトリップの再現を試みた。そして、それが成功した。この映画はバスビー・バークレーにヒエロニムス・ボスの作風を足した作品だ。



5位 『クロール -凶暴領域-』


『ジョーズ』に対するオマージュには素晴らしい系譜がある中で、アレクサンドル・アジャ監督によるこのサバイバル・ホラー映画は、フロリダ大学の競泳選手(カヤ・スコデラリオ、最高の絶叫クイーンになるべく訓練中)と彼女の父親(バリー・ペッパー)を母なる自然の小さな歯――この作品では、フロリダ州の沼地から飛び出してきた巨大なワニ――と戦わせている。フランス人のアジャ監督が歯を特徴とした水中の肉食動物からマジックを作り出したのはこれが初めてではない(彼は2010年に作られた『ピラニア』のリメイクを恐ろしく気味の悪いゴア映画にした男だ)。しかし今回は、特に追うものと追われるものが争うことになる第3幕に入ると、彼は甘ったるく、わざとらしい作風をやめて、ストレートに虐殺性に徹した。『クロール -凶暴領域-』が役目を果たすのは、この映画で中心的な存在として這い回るワニのように、1番残忍な野生の本能が優位になる時だ。



Translated by Koh Riverfield

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