鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター

昔何かのテレビ番組で心霊写真を特集していました。そこに出演していたテリー伊藤がフリップに点を3つ描いてこのようなことを言いました。「これ人の顔に見えませんか?人間っていうのは点が3つあると人の顔に見えるように出来てるんです。それを心霊だなんておかしな話じゃない」。この3つの点を目と口に描き換えれば実際の人間に近づくし、さらにそこへ陰影を足すとより写実的になります。この陰影を音楽ではダイナミクスだったり、アーティキュレーションで表現するわけです。音楽は何かを模写するものではないので、厳密に言えば実際はこの通りではないのですが。また、ダイナミクスやアーティキュレーションをリズムに関連することとして扱って良いのものか少し逡巡もあります。モジュレーション系のプラグインにテンポシンク機能がついていることから、思い切って含めてしまおうと思います。何はともあれ、デビィッド・T・ウォーカーは陰影と光彩の表現が素晴らしいという話です。おわかりいただけただろうか。

「You Sure Love To Ball」のリズム隊について少し触れたいと思います。ドラムはポール・ハンフリーで、個人的に贔屓のドラマーです。リズムの癖が結構強いのですがそこがまたファンキーです。ベースはウィルトン・フェルダー。クルセイダーズのサックス奏者ですが、ベーシストとしての腕も一流で、売れっ子スタジオ・ミュージシャンでもありました。ジミー・スミスの「Root Down」もこの2人が演奏しております。また、デヴィッド・T・ウォーカーのギターが炸裂するニック・デカロの『Italian Graffiti』収録の「Under The Jamaican Moon」もこの二人だと思われます。「You Sure Love To Ball」のイントロ及びコーラス部分のリズムはブラジル風味でエキゾチックなムードがあります。拍を優しくプッシュするようなフィーリングはバネの伸縮を思わせ、まさに下半身モヤモヤのリズムです。

最後に余談ですが、「You Sure Love To Ball」の異様なまでにセンシュアルな世界は行為そのものを音で描写したものとは思いません。むしろこうした音楽がその行為の官能性を再定義している面もあると考えています。「You Sure Love To Ball」のような音楽がもし仮にこの世に存在しなかったとしたら我々は我々の営みを甘美なものとして捉えていなかったかもしれない。そんなことを思う人肌恋しい2019年の冬であります。



鳥居真道



1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」

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