鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター

ところで、みなさんは音楽を聴いているときに楽器に感情移入というか共感をすることはありますか! 学生の頃、ママが切り盛りする飲食店でアルバイトをしていたのですが、あるとき洗い終わった食器を雑に置いてしまったところ、ママが「お皿が痛いって言ってるよ」と言うのです。本来、無機物である食器にもあたかも感情があるかのごとく考え、食器を慮り、丁寧に扱おうねという意図のもと、そのように忠告したのでしょう。ママはある意味、食器に感情移入したと言えます。これは食器を楽器に置き換えてみても通じそうではありませんか。決してミュージシャンは商売道具である楽器を雑に扱ったらいけませんよという話ではありません。あくまで誰かが演奏している楽器そのものに感情移入するかどうかということです。例えば、力まかせに叩かれたスネアの音を聴くとスネアに共感して苦しく感じてしまいます。体育会系の新人研修で大声を出すことに慣れていない人が、無理やり大声を出させられている感じと言ったら良いでしょうか。

もし仮に「ねぇ、誰に弾かれたいのか教えなよ」と尋ねられとしたら、デヴィッド・T・ウォーカーと答えたいと思います。彼のシグネチャーともいえるティアドロップ型のピックの尖ってない部分で弦をそっと撫でるピッキング、レガートで演奏されるトリルを用いたスイートなアルペジオ、鼓膜が溶けてしまいそうなほどメローなスライドはタッチのニュアンスに富んでおり、あからさまに肌と楽器の接触を連想させます。「You Sure Love To Ball」のギターを聴いた誰もが「ギターが気持ち良いって言ってるよ」とつぶやくことでしょう。

「You Sure Love To Ball」におけるデヴィッド・T・ウォーカーのバッキングは、アレンジの中に埋もれたかと思えばパッと顔を出すようなところがあります。さながら薄暗がりの中で光を乱反射させるシルクのシーツのようです。これはアーティキュレーションと滑らかな運指のなせる技でしょう。マーヴィン・ゲイの非常にセンシュアルな歌唱とデヴィッド・T・ウォーカーの演奏によるセクシー合戦のような様相を呈しています。

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