ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・メタル・アルバム」トップ10

7位 トゥーム・モルド『Planetary Clairvoyance』


トロントのトゥーム・モルドは2018年の傑作『Manor of Infinite Forms』でデスメタル・ドロップの手法を完成させた。EDMと同様に、不気味なサブジャンルの一つの最高の喜びが出現したのは、同アルバム収録曲の大胆さが衝撃的なハーフタイム・グルーヴとスリルを大量に放出したときだった。そして新作『Planetary Clairvoyance』で、彼らは表面上を少し小綺麗にした(アコースティックなブレイクを入れたり、サイファイな音風景を取り入れたり)が、その仕返しは前作よりも過酷だ。つまり、例をあげると、「Infinite Resurrection」のブラストビートの旋風は、気取ったハードコアらしいブレイクダウンへと絶え間なく吹き続け、その変化は聞く者のトカゲ脳に衝撃を与える。これは百発百中のこん棒を振り回す、狡猾で複雑な技術を必要としたゲームであり、これこそが、彼らと同様にアンダーグラウンドで活躍するブラッド・インカンテーション、ゲイトクリーパーなどのデスメタル・バンドが傑作をリリースした今年の中で、『Planetary Clairvoyance』が突出している最大の理由でもある。(HS)




6位 キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード『Infest the Rats’ Nest』


それはうだるように暑いオーストラリアの熱波だったのか。それともスチュ・マッケンジー(Vo,Gt)が遂に怒りを爆発させたせいなのか。とにかく、ここ10年間ヘヴィ・メタルへ色気を出していたノイジーなサイケロック集団キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードが、15枚目で遂にヘッドバンガー作品をリリースした。しかし、このアルバムの驚異的な点は、まるで本物のメタルに聞こえることなのだ。インディ・ロックをルーツに持つグループなのだから、普通ならちょっと気取りながらメタル風のアプローチをした音楽を期待するところだが、キング・ギザードはメタル銃を連射する。そして、この作品の音楽はあらゆるところに食指を伸ばす。重低音、うねり、モーターヘッド的抵抗から高速のメタリカ風リフまで。そしてマッケンジーは持てる能力を全て使ってレミーやマット・パイク的な唸り声を絞り出しながら、ディンゴを撃つ歌(「Plant B」)を歌い、他の惑星を植民地化する金持ち連中への軽蔑を表す(「Mars for the Rich」)。宇宙的なトリッピーさがあるとは言え(宇宙を扱った曲は1曲だけでなく、もう1曲金星の歌もある)、本能的な音楽を作りたいという世俗的な欲望に身を委ねた証拠がこの作品であり、聞くものをワクワクさせる。(KG)




5位 ダークスローン『Old Star』


四半世紀前、ダークスローンは醜い内輪もめ騒動と世界的な報道合戦の震源地近くに立っていた。それが90年代初頭のノルウェーのブラック・メタル界だった。そして2019年、このデュオは同シーンで今でも長老として崇められている。しかし、現在の彼らの音楽はブラック・メタルと共通するサウンド要素も、このジャンルに分類され得る要素もない。ハイテク・デスメタルのグループから生でローファイな一本調子とレトロで露骨な意地の悪さのチャンピオンへと彼らは変化しており、がさつでありながら優雅、古典的でありなが高度に進化していると感じる、カテゴリ分け不能のメタル音楽を完全にするべく音楽活動を続けている。アルバム『Old Star』は、2017年の傑作『Arctic Thunder』の流れを踏襲した作品で、小さな叙事詩を紐解き、豊かに織り込まれた不格好なリフとノクターノ・カルト(Gt,Vo)の苦悩の唸り声から最高のドラマを描き出すことに焦点が当てられた。見事に歯ごたえのあるサウンドが、歩調もタイムもみだれたままのこのバンドの音風景を容易に、そして完璧に仕上げている。「俺たちが『Arctic Thunder』と『Old Star』をレコーディングしたのは古い防空壕で、80年代後半にリハーサルやデモ作りで頻繁に使っていた場所だった」と、ノクターノ・カルトはニュー・ノイズ誌に語っている。「あの防空壕の音響はひどいもので、スタジオに入ると戦争体験しているようなものだったが、あの戦争だったら俺たちは嫌いじゃない」と。(HS)


Translated by Miki Nakayama

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