石若駿はさらなる地平へ、新世代のリーダーを引き受ける覚悟と今思うこと

石若駿(Courtesy of ソニーミュージック)

ジャズ・ドラマーの石若駿が、新プロジェクト「Answer to Remember」の名を冠した1stアルバムを発表した。くるりの全国ツアーに参加し、常田大希(King Gnu)とは東京藝術大学の同級生。本作には黒田卓也、KID FRESINO、中村佳穂、君島大空など20名以上のミュージシャンが参加している。日本の次世代を担うキーパーソンに現在の心境を聞いた。聞き手は、本人とも交流のあるジャズ評論家の柳樂光隆。

石若駿は、誰もが一発で魅了されるであろう圧倒的なドラミングで知られている。しかし彼は、様々な名義を使い分けながら自身のリーダー作をいくつか発表しているが、そこではトレードマークを頑なに封印してきた(ように僕には映った)。

ここ日本でも、クリス・デイヴやマーク・ジュリアナといった海外のジャズドラマーはジャンルを超えて注目されてきたし、彼らに影響を受けた日本のアーティストが、海外のシーンに呼応するような作品を出して話題になったりもした。にもかかわらず、真打ちであるはずの石若は、自身のドラムをアピールするような音源をリリースしてこなかった。ピアノも弾きこなしたり、作曲家としての非凡なセンスを感じさせてはきたものの、リーダーとしての彼はわかりにくい音楽家だった。

ところが、新たに立ち上げたプロジェクト「Answer to Remember」では、これまでが嘘みたいにドラムを叩きまくっている。僕は思った。おい、お前どうした?

さらに、ここにきてメジャーのソニーと契約したのも意外だった。本業のジャズから引く手数多の共演まで、トップクラスに多忙なドラマーである石若は、これまではインディ・レーベルを拠点に、マイペースに好きなタイミングで自分の好きな人たちと制作してきた。セールスやプロモーションよりも、自分の好きな音楽を気ままに作れる環境のほうが彼にとっては大事で、「あとは聴き手に委ねます、俺は次に行くんで」というスタンスなのかと勝手に想像していたからだ。

アルバムの詳細については、おそらく他のインタビューで山ほど聞かれるだろう。それよりも僕は、「石若駿の本音」に興味がある。これまでのスタンスとは違う道に進むにあたって、彼なりの決心みたいなものがあるとしたら、それを記録しておくべきだと思ったのだ。


メジャーが「ふさわしい」と思った理由

―これまでも自由に作品を出したり、サポートをやったりなど活動は順調ですよね。作曲家モードのジャズ・アルバム『CLEANUP』(2016年)、歌ものの『SONGBOOK』シリーズに、CRCK/LCKSもやってるし、くるりのツアーもやってるし、KID FRESINOや君島大空、長谷川白紙、King Gnuの常田大希のプロジェクト(millennium parade)など広く共演している。

石若:そうですね。


石若が参加した、くるりのライブ映像

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millennium paradeの集合写真(右から3人目が石若)。石若はKing Gnuの前身バンド、Srv.Vinciのメンバーだった。

―しかもまだ若い。King Gnuは別ですけど、周りの近い世代のミュージシャン達はインディペンデントな感じで、フットワーク軽く活動している人も多いじゃないですか。そんな石若駿がソニーみたいなメジャーのレコード会社と組んで、自分のリーダー作を出そうと思ったのはどうしてかなと思ったんですよ。だって、そんな話はこれまでにもたくさん来ていたわけでしょ?

石若:このプロジェクトはソニーとのタイミングもあったんです。田渕さんって日野皓正さんのマネージャーをやられている人がいるんですけど、彼からも「駿は今のジャズ・アーティストの中でも、メジャーからリリースするのがふさわしいんじゃないかな」と言われてて、自分でもそう思っていたんです。そういうこともあったので、ソニーの原賀さんとも話が進んで、ついに時が来たと思ったんです。

―その「ふさわしい」ってことに関して、もう少し聞きたいんですけど。

石若:もう日本のジャズのアーティストとはほぼご一緒したんですよね。日野さんや(渡辺)貞夫さんとも共演しました。秋吉敏子さん以外はほとんど共演させてもらって。それにみんな仲間だし、敵がいないっていうのもありますね。

―なるほど。石若駿にはすでにそれだけのキャリアがあるし、ジャズ界隈ではもちろん知らない人はいないだろうし、やれることはやっちゃったので、メジャーから出すような立場になったと。

石若:そう感じています。

―では、メジャーから出すことでどんなことができると思ったんですか?

石若:プロジェクトを始めた時から、「海外を視野に入れる」という意識はありましたね。たとえば、このアルバムのバンドで海外のフェスに行けたら面白いと思うし、ソニーならそういうルートも強そうだなって。もちろん、(曲も)海外向けに配信する前提だし、そこで今までのジャズ・シーンへのアプローチとは違ったチャンスがあるんじゃないかなと。

―でも、今までの音源だって海外からストリーミングとかで聴けるわけですよね。

石若:そこはソニーの力を借りることで、もっと大きなプロモーションだったり、自分ではできないことが可能になる武器が欲しかったんですよね。

―海外を視野に入れること以外で、他にどういうところにメジャーのメリットがあると思ったんですか?

石若:これまでより贅沢な制作ができたんですよね。中村佳穂BANDが東京に来た時も、いきなりソニーのデカいスタジオでレコーディングできました。黒田(卓也)さんを召喚するときも、向こう(海外)のマネージャーと交渉したりするのはメジャーじゃないと難しいところもあるんですよ。あと、今回参加してくれたミュージシャンはみんな忙しいじゃないですか。そのなかで丁寧に一つずつ作業ができたっていうのもありますね。インディで出すときには2日間くらいみんなで集まって、リハをする間もなく、スタジオに入ってすぐに録り始める場合が多かったんですけど、今回はやりたいサウンドを実現するために吟味する時間がたくさんあったので、そこはまったく違います。


中村佳穂が12月10日に東京・新木場STUDIO COASTで開催したライブ企画に石若もゲスト参加、Answer To Rememberでコラボした「LIFE FOR KISS」を一緒に披露した。


黒田卓也はNYブルックリン在住、日本人として初めてブルーノートと契約したトランペッター(現在はコンコードに移籍)。ホセ・ジェイムズ、ceroとの共演でも知られる。

―じゃ、制作期間もたっぷりとったんですね。

石若:はい、今年の2月からずっとやってました。

―ジャズの常識から考えると、かなりじっくり作ってますね。そういう経験は今までにあったんですか?

石若:『SONGBOOK』は長い時間をかけて作ってますけど、一人で多重録音したりゲスト・アーティストとの一対一の作業だからできたことであって。こんなにたくさんの人が参加していて、しかもソニーのスタジオを使えて、たくさん時間をかけられたのは全然違いますね。あと、今回はリスナー層も拡大したかったんですよ。さっきのプロモーションの話とも繋がってくるんですけど、それは自分だけではできないことですからね。

―でも、石若はそれなりに知名度もあるし、仲間のミュージシャンも有名になってきているし、そこは簡単にいけそうですけど。今までは感触がなかったってこと?

石若:そうですね。自分がそう思っているだけかもしれないけど。

―たしかに石若が参加している作品と比べると、自分の作品は反響が薄く感じられたのはあるかもしれないですけど。

石若:それもあるし、今まで自分のプロジェクトだと、あまりドラムを叩いてこなかったんですよね。

―うん、知ってます(笑)。

石若:だから、今回はすげー叩こうと思って。その辺に関しても、田渕さんや原賀さんが背中を押してくれたのはありますね。

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