アダム・ドライバーが語る、世界が恋をした最強の悪役

ドライバーはカイロ・レンを演じる際、自分の実年齢よりも少し若めに演じている。あの役柄の未完成な部分が、カイロ・レンを魅力ある人物にしているのだ。大人の男への成長途上で葛藤と怒りを抱え、耳元でささやく強大な力に心乱されながら、宿命的なトラウマを受け継ぎ、終わりなき戦争の時代に生まれ育った男。これだけでも、脅威を与えるには十分もっともらしい。だが、ダークサイドに落ちる前のベン・ソロとしての彼の姿には、意外にも同情心をかき立てられるところがある。やるせなさで半ば泣きそうになりながら、全軍にルーク・スカイウォーカーを撃てと命じる姿にも。

「少しばかり弱い一面を持つ悪役がいるっていうのが大事なんだ」とドライバーは言う。「単なるサイコパスよりも現実味がわくし、人間らしくなる」

ドライバーの名演技には、無言のカイロの瞳の奥に苦悩が見て取れるシーンもいくつかある(概してドライバーは、物言わずして語るシーンを好む)。「彼は表情で演技する役者です」と、ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディ社長も言う。彼女こそ、最初にドライバーをカイロ役に推した人物だ。前職でスティーヴン・スピルバーグ監督作品のプロデューサーを務めていたころ、映画『リンカーン』の端役で(電話オペレーター役)彼を起用したのがきっかけだった。「それがカイロ・レンに深みを与え、彼が過去の経験から心理的な傷を負っていることがわかるんです」 ドライバーもカイロ・レンと彼の境遇にずいぶん肩入れしているので、確認の電話をかけたときも、カイロ・レンが「怒りっぽい」という私の評価に対してずいぶん長い時間をかけて異を唱えた。

カイロ・レンにも、人を惹きつける闇の部分がある。ただし、ダース・ベーダーとは少々違う類のものだ。「僕が映画の主人公にしたいのも、まさにそういう人物なんだ」とバームバック監督も言う。「たとえいくらか悪いヤツに見えるとしてもね。あの赤い部屋での彼は、本当にヒーローだったよ」2017年の『最後のジェダイ』で、カイロがほんの一瞬、デイジー・リドリー演じるジェダイの卵レイに加担し、敵を8人一気に打ちのめすシーンのことだ。「キャラクター冥利というよりも」とバームバック監督はこう続けた。「演技や存在感のなせる業だね」


Carlos Serrao for Rolling Stone

スクリーン上でのドライバーとリドリーの息の合った演技は疑いようもない。映画でも、2人が演じる役柄の間に、恋愛感情ともとれるような心のつながりを仄めかしている。ファンはファンでこの話題に大騒ぎし、カイロとレイのいわゆる“レイロ”カップルの誕生を望む熱心なファンもいる。よく耳にする反対意見は、筆者自身もドライバーに投げかけたものだが、カイロは数々の恐ろしい罪に手を染めたという点だ(ジェダイ修業時代の仲間を手に懸け、父親を殺し、母親も爆破しかけ、ストームトルーパーに無実の村人を殺させた上、ハイウェストのパンツに上半身裸でほっつき歩く)。「もちろん僕は彼に同情するし、理解もできる」とドライバーは言う。「でも、僕にはちょっと難しいけど、はた目からみればわかるよね。クラスメイトを殺すような人間が、いい恋人の条件を備えているとは思えない」公平を期すために言えば、レイロ擁護派も恋が実る前に、カイロは何らかの贖罪――ベンデンプション、とでもいおうか――を果たすべきだと認めている。

おそらく、贖罪ではないにしても、カイロ・レンはどこかへ去っていく。これまでそうだったように――ドライバーとエイブラムス監督は早い段階で、キャラクターの行く末、少なくとも『スカイウォーカーの夜明け』で迎える結末について、話し合っていたそうだ。「彼はいわば、甘やかされた金持ちの息子。何者かにならなきゃいけないんだ」とドライバー。「彼は自分が何者かを知るために、我が道を行く。人は誰でも自分自身を知るために、比喩的な意味で父親を殺さなくちゃいけないのかもしれない。この場合は、本当に殺してしまうわけだけどね。自分が自分らしくあるために、ある時点で一線を越えなきゃいけないんだ」 そこで彼はうっすら笑みを浮かべた。「でもやっぱり、自分が何者かは永遠にわからないんだ」。


スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
12月20日(金)日米同時公開

Translated by Akiko Kato

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