アダム・ドライバーが語る、世界が恋をした最強の悪役

ドライバーとは何度も仕事した経験のあるバームバック監督も、ドライバーは自分のセリフに「風格を与える」と言い、まるで「70年代の性格俳優――パチーノやホフマン、デ・ニーロといった往年の名優を彷彿とさせるね。彼にはそういう俳優と相通じるものを感じるよ」

そうした名優の中で、SFものをやった俳優は誰もいない。だがドライバーはハン・ソロとレイア・オーガナの息子役として、溶けたダース・ベイダーのヘルメットに向かって独白しつつ、完全に自分らしさを放っていた。『フォースの覚醒』と『スカイウォーカーの夜明け』のJ・J・エイブラムス監督もドライバーの大ファンで、撮影合間の彼のたたずまいについてこう語る。「時々近寄りがたいところがある……どっぷり物思いにふけっているから、声をかけるのもためらわれるほどだよ。それもひとえに集中しているからなんだ。『むしゃくしゃしてる』っていうわけじゃない。役と格闘しているんだよ」 伝え聞くところによれば、『スター・ウォーズ』オリジナル三部作の撮影中マーク・ハミルは、レイアとハン、ルークがデス・スターのごみ処理施設から脱出した後のシーンで3人の髪は濡れそぼっているべきだ、と力説したという。その時ハリソン・フォードはにやりと笑ってこう返した。「これはその手の映画じゃないのさ、坊や」

ドライバーにとっては、あらゆる映画が“その手の”映画なのだ。


『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』でカイロ・レンを演じるアダム・ドライバー(Photo: Jonathan Olley /Lucasfilm Ltd.)

レイバー・デイ(9月の第1月曜日の祝日)の翌火曜日、ドライバーは自宅のあるブルックリンハイツに戻っていた。その前の週末にテルライド映画祭で、スコセッシ監督から直々に偉大な俳優ランキングの2等賞を頂戴したばかりだった。川岸ちかくで待ち合わせすると、ドライバーは茶色の犬を散歩させながら現れた。「こちらはムース」と、かしこまって紹介した。ムースはロットワイラーの雑種で、闘犬の血も少々入っている。飼い主が熱心な闘犬擁護派なのだ。「闘犬はみんないい犬なんだよ」と彼は言う。「オーナーがくそったれだから、犬も性質が悪くなるんだ」

ドライバーの容姿を描写しようとすると、それだけで丸々ひとつの文学ジャンルができそうだ。良く言えば、『GIRLS/ガールズ』の登場人物も言っていたように、「昔懐かしの犯罪者」。悪く言えば、決して正しくはないが、あどけなさの残る顔つきは「ネズミそっくり」(ドライバー本人談)。『GIRLS/ガールズ』の中で終始上半身裸だった時の印象は、いまも残っている。完璧に磨き上げられた肉体と、それとは対照的な完成されていない顔。変形自在で、いわば顔のスケッチ。彼が役に入って初めて形が定まる。

ドライバーとはここ何年か言葉を交わす機会があった。ごく最近では7月、『Burn This』の楽屋でだった。あの日の彼は、好評を博したブロードウェイ公演の千秋楽を間近に控え、少々高揚していた。今日は、映画祭めぐりとブリュッセルでの映画の撮影の合間ということもあり、彼もムースも大人しかった。ドライバーはベンチに、ムースは注意深く地面に腰を下ろし(彼が毛嫌いする白い犬がいないか、目を光らせているらしい)、イーストリバーとロウワーマンハタンの眺望を眺めていた。ドライバーはサングラスをかけ、ポケットのついた洗いざらしの白いTシャツにDickiesの膝丈の短パン、足元にはローカットのアディダスを身に付けていた。次の役作りのための準備だろう、明らかに7月よりもほっそりしていた。

多忙なスケジュールも影響していた。息子が成長するにつれ、息子と6年連れ添った妻ジョアン・タッカーを置いて仕事に行くのがますます辛くなる。「あまり仕事を入れ過ぎないようにしているんだ」と彼は言う。「今は基準が変わったよ。やりがいのある仕事だけにしている。家をしょっちゅう空けなきゃいけないわけだからね」 ドライバーいわく、「マルチタスクが苦手でね――ひとつのことが目に入ると、それが片付くまでかかり切りになってしまう」 父親になるまではそれで良かった。だが父親になったことで、前よりも「人間らしい」時間をもつことを考えるようになったという。

Translated by Akiko Kato

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