トレイボン・マーティン射殺事件の容疑者、遺族らに1億ドルの損害賠償を請求

陰謀論者の説を根拠に、トレイボン・マーティンさんの遺族らを相手に1億ドルの損害賠償訴訟を起こしたジョージ・ジマーマン氏(Photo by Joe Burbank-Pool/Getty Images)

2013年、トレイボン・マーティンさんが射殺された事件で殺人罪に問われているジョージ・ジマーマン容疑者が、マーティンさんの遺族と弁護士の一人ベン・クランプ氏、複数の検察官、出版社らを相手に、悪意のある訴追、名誉毀損、訴権乱用で1億ドルの損害賠償を請求した。ジマーマン氏は自己防衛を主張していた。

ジマーマン氏の代理人を務めるのはラリー・クレイマン氏。保守派の弁護士で知られるクレイマン氏は、右翼団体Judicial Watchの創設者でもある。原告は、被告人らがジマーマン氏の「憲法上の権利」を侵したと非難し、ジョエル・ギルバート氏の新著及び映像作品『The Trayvon Hoax(原題)』で「最近明るみになった」新事実に基づいていると主張している。ギルバート氏は有名な陰謀論者で、バラク・オバマ前大統領やポール・マッカートニー、エルヴィスに関する根も葉もない主張を推し進めてきた人物だ。アレックス・ジョーンズ氏が主宰するInfoWarsにも定期的に登場している。

訴状は本の一部を引用して、マーティンさんの母親シブリーナ・フルトン氏と父親のトレイシー・マーティン氏、さらにクランプ弁護士と複数のフロリダ州検察官が、マーティンさんが殺された夜について嘘の供述を強要したと主張。中でも、証人のレイチェル・ジェンテル氏が事件当時にマーティンさんと電話していたと嘘をつき、「周囲の指示に従って、ジマーマン氏を罪に陥れるために虚偽の供述をした」と主張している。

さらに、あの夜マーティンさんと電話していたのはジェンテル氏ではなく、マイアミに住むブリタニー・ダイアモンド・ユージーン氏だったと続け、「ジマーマン氏に不利な証言をすることをユージーン氏が拒否したため、ジェンテル氏が代わりに証言した」と主張している。

またクランプ氏に対しては、同氏が最新著書『Open Season: Legalized Genocide of Colored People(原題)』の中でジマーマン氏に関して誤った記述をしていると非難している。訴えによれば、クランプ氏とマーティン事件の関係によって「本のタイトルはジマーマン氏について言及しているとも受け取れる」とし、「現在及び過去に(ジマーマン氏が)『有色人種の大量殺人』に関与したという誤ったニュアンス」を仄めかしているという。さらに、「警察当局がジマーマン氏にマーティンさんの後を追わずに警察の到着を待つよう指示したにも拘わらず、彼が従わなかった」という本の一節を取り上げ、細かい表現を問題視している。ひとつには、ジマーマン氏が言葉を交わしたのは警察官ではなく「緊急事件以外の事件の担当者」であり、また通話記録によれば、マーティンさんを追うなと言われたジマーマン氏は「わかった」と答えた、と主張している。

訴状によれば、本の著者であるクランプ氏と出版社のHarperCollins社は、「明らかに悪意を持って、本の売上を伸ばし……あたかも原告ジマーマン氏がこうした大量殺人の先頭に立っていたかのように仄めかす、不条理で扇動的かつ人種差別的なタイトルを正当化しようとした」と主張している。

クランプ氏はサウスフロリダ・サン・センティネル紙に送った声明文の中でこう述べた。「必ずや、この根拠のない、非情な訴訟の化けの皮がはがされることでしょう――他人の生活や悲しみを食い物にする弁護の余地もない破廉恥な行為を正当化しようという、無駄な試みです」

ローリングストーン誌のコメント取材の依頼に対し、クレイマン氏からまだ返答は得られていない。

Translated by Akiko Kato

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