『ゴーストマスター』監督ヤング・ポールと小出祐介、究極の映画愛を語る

ー映画に出てくるモンスターでお気に入りのものは?

小出:マイケル・マイヤーズ(『ハロウィン』シリーズに登場する殺人鬼ブギーマン)かな。

ポール:今まで言ってきた人物像とは真逆に、本当に底がない悪いだけの男としてウェス・クレイヴン監督作品の『ショッカー』(1989)に出てくるピンカーですね。死刑になってテレビの電波になっちゃうやつで。哀愁のかけらもないのが最高。やってることも無茶苦茶だし、あそこまでやられるとスカッとしていて。

小出:ところで映画を見るとき、キャラクターで見ますか? それともストーリーで見ますか?

ポール:キャラクターでは見ないですね。シーンというよりかは出来事だったり、瞬間の断片です。だから、映画を見終わっても何の映画だか忘れちゃうこともあるくらいで。でもあの場面であの出来事が起こったなとかはかなり覚えていますね。

小出:俺は、全体の構成とか、お話の奥行きとか…… だから人間が残っていないくて。極端な話、どの俳優さんが出ているのかとかには興味がないのかも(笑)。人によっては、ブラピが良かったとかいうけど。俺も良かったとは思ったけど、そんなに覚えてないわ、みたいな。

ポール:僕は本当に記憶力がなくて、俳優の名前を覚えるのが苦手なんですよ。たまにすごく記憶している人っているじゃないですか。

小出:俺も出てこないんだよなあ。すぐ出てきるのイーサン・ホークくらい(笑)。

ポール:語感がいい人は覚えやすいですよね。



ー黒沢明がいろいろな映画監督の名前を出して「謝れ!」と言うシーンで、引き合いに出されるのがジョージ・A・ロメロ、ジョン・カーペンター、ブライアン・デ・パルマ、ウィリアム・フリードキン、ルチオ・フルチ、サム・ライミ、ジョージ・ミラー、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディス、スティーヴン・スピルバーグ、深作欣二、中島貞夫、野村芳太郎、黒澤明…… そんな中で「タランティーノはいい」というオチが付きますが、何故タランティーノには謝らなくていいのでしょうか?

ポール:あのセリフは脚本の楠野(一郎)さんが書いたセリフなんです。僕も一瞬、何でかな……? とも思ったんですけどまあ、よく考えると確かに謝らなくてもいいなって。僕の解釈では、黒沢の中でタランティーノはライバルなんですよ。

小出:同族嫌悪というか。

ポール:ジョー・ダンテだったりサム・ライミとか関しては、マスターピースだし偉人。ただタランティーノ、お前は俺と一緒だろ? っていう。お前だって映画ファンじゃん! という意味でライバルだから、あいつは入れない……! ということだと思います。

小出:タランティーノって映画の天才というよりかは、エキスパートのオタクじゃないですか? だからああいう作品を作れる。そういう意味では天才なんだけど。映画を開拓していった監督とは違う文脈だと思うんですよ。『ゴーストマスター』の明はどっちかっていうとタランティーノ側の人間。ゼロから何かを作るんじゃなくて、いろんなものが大好きで俺も撮りたいっていう人。

ポール:うん、だから彼の成功が憎たらしいってね。俺だって映画見てるし! なんであいつだけうまくいってるんだっていう。羨ましいんだと思いますね。

小出:タランティーノの場合、昔から続いている文脈を未だにサンプリングしているのが本当にヒップホップっぽいんじゃないかな。音楽もそうだし、場面や文脈ごとのサンプリングがうまくて。だから明はより嫉妬するんじゃないかな。俺もそういうことやりたいよ! っていう。

ポール:むしろ文脈で勝負してますもんね。『デス・プルーフ in グラインドハウス』なんかも、歴代のトラッシュムービーで殺されてきた女性たちがいるんですよ、から彼女たちのリベンジのムービーなんですよっていう読み替えが憎たらしい! けど見にいって楽しんじゃうみたいな。

Rolling Stone Japan 編集部

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