『ゴーストマスター』監督ヤング・ポールと小出祐介、究極の映画愛を語る

ー小出さんの『ゴーストマスター』を見た印象は?

小出:謎のエモさがありましたね。荒削りの中に光るものがあるというか。言葉で凄さを説明できる映画よりも、1日2日置いてやっぱ好きかもって思える映画の方が心に残るじゃないですか。『ゴーストマスター』はそういう映画でしたね。



ー先ほどサンプリングという言葉も出ましたが、『ゴーストマスター』では幾つもマニアックなネタがありますね。それはコアな客層に向けたものなのでしょうか?

ポール:正直、「このネタ判るよね?」みたいなオタクの楽しみみたいな映画にしちゃいかんと思っていたんですよ。実際いろんなサンプリングというか、わかりやすい引用もあるんですけれど、それは台本上、(主人公の)黒沢明という男の脚本が生み出した世界なんです。ネタ元を知らないと楽しめないということもないし、密かなホラーマニアの為に作ったわけではなくて。知らない人が見ても面白がれるようにしたつもりではありますね。

小出:そもそもサンプリングというものは、そうあるべきなんですよ。元ネタがわかる人がニヤリとする為だけにあってはいけない! サンプリングすることによって別の新しい何かになっていないといけないんです。この映画はそうなってはいないから、元ネタを知らないでも楽しめるし、「面白いな、カメラ人間!」となれるという(笑)。

ポール:音楽でも、元ネタに偶然フト出会うと、すごく感動するんですよ。これが元ネタだったのか! ってね。それと同じで、この映画に出てくる描写の元ネタに20年後とかに気がつくような…… そういう出会いがハッピーだと思いますね。

小出:元ネタと出会ったときに、改めて感銘を受けるときもあるじゃないですか。ヒップホップのサンプリングのときに本当に一部だけ使っていて、原曲を聞いたら「え? これってこんな曲なの」とか思ってびっくりしたり。

ー『ゴーストマスター』の映像上の“サンプリング”で印象に残っているものはありますか?

小出:それって難しいですよね。これっぽいかもっていうのはあるけど、はっきりとしたそれは実はそんなに多くないから。

ポール:台本になくて現場でやることになったのは(イエジー・)スコリモフスキー監督の『ザ・シャウト さまよえる幻響』(1978)っていう映画があるんですけど。叫び声で人を殺すっていう…… それを導入出来たのは嬉しかったですね。あと、サンプリングではないんですけど、勇也というキャラクターは意識したものではないんですけど、トビー・フーパーのモンスターに対するシンパシーにつながっている気がします。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスだって、ただのキ●●イ家族の怖いモンスターではなくて、皮のマスクをかぶった悲しさも描かれていると思うんですよ。人をさらってきた時に、はっきりではないんですけど一瞬ためらう様子が見えたりとか…… 「俺は一体何をしているんだ?」というか。勇也に関してもそうで、ただ頭のおかしい俳優が乗り移られてこんなことをやっちゃいましたというのではなくて、彼には彼なりの真面目さがあって。理屈があって、ああなってしまった。そんな描き方は、トビー・フーパーと繋がっているかも知れないです。真似しようとしたわけではなく、モンスターの描き方がそうなったということですけどね。

Rolling Stone Japan 編集部

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