KISS最後の来日ツアーが仙台にて開幕、バンドのすべてを凝縮した「完璧な2時間」

12月8日、ゼビオアリーナ仙台にて来日公演を行ったKISS(Photo by 齋藤霊一)

KISS最後のジャパン・ツアーが仙台にて開幕。ジーン・シモンズの来日取材も行った、音楽ライター・増田勇一による初日のレポートをお届けする。

今年1月より、ツアー活動の終了を示唆する『END OF THE ROAD』というタイトルを掲げながら、2年半がかりのワールド・ツアーを開始しているKISSが、欧米での約100本に及ぶ公演を経て、12月5日に日本上陸。同8日、ゼビオアリーナ仙台にて、最後のジャパン・ツアーが幕を開けた。

レッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」が流れるなか、開演定刻の午後6時ちょうどに場内は暗転。お馴染みの「ベストなものが欲しいか/それをおまえは手に入れた/世界でいちばんホットなバンド」という意味合いの言葉が荒々しく挑発的にアナウンスされると、すぐさまオーディエンスを興奮へと導くかのような象徴的なイントロが聴こえ、ステージを覆いつくしていた幕が落ち、まばゆすぎるほどの照明のなか、爆音が轟き、大量の火炎が噴出する。そして、天空の世界からメンバーたちがゆっくりと降りてくる。例によってこのバンドは、最初の登場シーンひとつでオーディエンスのハートをがっちりと掴んでしまう。

オープニング・チューンの正体は、敢えてこの文脈のなかでは書かずにおく。もちろんすでに情報は広まっているはずだし、KISSが1曲目に披露する鉄板曲といえば熱心なファンならずとも想像がつくことだろうが、これから先に控えている各地での公演を予備知識のない状態で楽しみたいという人たちへの邪魔はせずにおきたい(こちらの記事の下部にはセットリストも掲載しているので、いわゆるネタバレを避けたい読者はご注意のこと)。ただ、KISSのショウが、演奏内容やそれに伴う演出などについてすべて把握した状態で臨んでも興奮を抑えきれないものであるのも、また事実。ジーン・シモンズが火を吹き、血を吐き、ポール・スタンレーがフロア後方に設えられたサブ・ステージへと空中移動するといった定番の見せ場は漏れなく組み込まれているし、ステージ・セットにしても映像にしても、すべてが最新鋭のものにアップ・グレードされている。曲の数と同じだけではなく、過剰なほどに趣向が凝らされているから、目に飛び込んでくる光景や、そこでのさまざまな出来事、メンバーたちの振る舞いや発言といったものが、頭のなかで整理しきれなくなるほどだ。




Photo by 齋藤霊一

紅白に彩られた大量の紙吹雪が舞うなかで4人がすべての演奏を終えたのは、場内暗転の瞬間からちょうど2時間を経た午後8時のこと。最後のツアーということもあり、もっと長くステージにとどまっていて欲しい気もするが、観る者の「もっと楽しみたい!」という気持ちが高まっているところで姿を消すのも、KISSの得意技のひとつだ。しかも来場者たちは、そこで不満を口にするのではなく笑顔で帰路に就く。これまた彼らのライヴを象徴する光景のひとつだといえる。何時間観ても観足りない、という人も当然いるだろう。が、KISSは“量”についてももちろんだが“質”にはもっとこだわっている。しかも2時間という時間枠のなかに、このバンドを長年追い続けてきたファンと、初めて彼らのライヴを観る機会に恵まれた人たちの双方が絶対に聴きたがっているはずのキラー・チューンの数々を惜しみなく詰め込んで機能的に配置し、各曲がいちばん効力を発揮する形で炸裂するのだ。そして、KISSとしての完璧なショウを実践するうえで、どれくらいの時間の範囲内でどのような組み立て方をしていくことがベストであるかを、彼ら自身が熟知しているのだ。




KISSが初めて日本上陸を果たしたのは1977年のこと。その際から数えて、彼らのジャパン・ツアーは今回が通算12回目ということになる。そして、彼らのツアー人生を締め括るこの長いロードの最終地点は、2021年7月、ニューヨークに設定されていて、それまでの約19ヵ月間のうちに彼らがふたたび日本を訪れる可能性は、彼ら自身の発言やさまざまな状況を踏まえれば、奇跡レベルの低さだと言わざるを得ない。このジャパン・ツアーは、この先、11日の東京ドーム公演を経て、盛岡、大阪、名古屋、と続いていく。見納めなどという言葉は使いたくないが、メンバーたちの言葉をそのまま借りるならば、筆者としても皆さんに「このラスト・チャンスを逃してほしくない」という気持ちだ。もっと言うならば、そうした気持ちは、完全ソールドアウトとなった仙台公演を観たことで、さらに強まっている。

また、形態的にはアリーナであるとはいえキャパシティ約4,000人というこの会場で、あり得ないほど間近な距離感でKISSのショウを観たことが、とても贅沢な体験のように感じられたことも付け加えておきたい。なにしろ彼らのショウは、2万人以上を収容するアリーナやスタジアムで演奏することを前提としながら組み立てられたものなのだ。彼らはこの規模の場所にも可能な限りすべてを持ち込み、妥協なきKISSショウを繰り広げてみせた。その凝縮感、親密感といったものにはすさまじいものがあったが、このショウが東京ドームや京セラドーム大阪といった大会場で繰り広げられると、今度はまた違った次元でのエキサイトメントがもたらされることになるに違いない。改めて言うまでもないことだが、いずれの公演も、必見である。

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